姉の身代わりに敵国に嫁いだら皇太子に溺愛されました
命。それはつまり――

「この国で、危害を加えられることはない」

彼は当たり前のように続ける。

「ただし、それ以上は望むな」

その言葉が、静かに胸に落ちる。

「静かに妃としての役目を全うすればいい」

それだけ言うと、ルシアン殿下は視線を外した。

まるで、それで会話は終わりだと告げるように。

私は何も言えなかった。

守ってくれる。命は保証する。

それは、本来なら安心できる言葉のはずなのに。

どうしてこんなにも、胸が冷えていくのだろう。

――それ以上は望むな。

その一言が、心に深く残る。

私は、ただの“役目”としてここにいる。

愛されることも、求められることもない。

それでも私は、この人の隣に立つと決めた。

グラスを握りしめながら、静かに息を整える。

周囲の笑い声が、遠くに聞こえた。
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