姉の身代わりに敵国に嫁いだら皇太子に溺愛されました
ルシアン殿下は、わずかに目を細める。

「……そうだ」

その一言で、すべてが分かった気がした。

愛があっても、選ばれない。

身分がなければ、届かない。

そして――私は、その“選ばれた側”にいる。

それがどんな意味を持つのか、まだ分からないまま。

「来い」

不意に、低い声が落ちた。

顔を上げると、ルシアン殿下がこちらを見ている。

「今夜から、お前は皇太子妃だ」

その言葉の重みが、静かに胸へ沈む。

私は小さく頷いた。

導かれるままに歩き出す。

長い廊下の先、扉が開かれる。

そこは――彼の、寝所。逃げ場はない。

それでも、足を止めることはしなかった。

私は、この人の妻なのだから。

胸の奥に残るわずかな痛みを抱えたまま、静かにその部屋へと足を踏み入れた。
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