姉の身代わりに敵国に嫁いだら皇太子に溺愛されました
部屋に通されたとき、胸の奥が静かに高鳴った。

ここが――ルシアン殿下の寝所。

扉が閉まる音が、やけに大きく響く。

殿下は無言のままソファーに腰を下ろし、婚礼衣装の上着を脱いだ。

その仕草は、どこか気怠げで、それでいて隙がない。

私は少し遅れてドレスを脱ぎ、用意されていたネグリジェに袖を通す。

白い布が、肌にやわらかく触れる。

――私は、これからこの人のものになる。

そう思った瞬間、胸の奥がぎゅっと締めつけられた。

「……力を抜け」

不意に、低い声が落ちる。

顔を上げると、ルシアン殿下がこちらを見ていた。

「今夜は手を付けない」

その一言に、思わず目を瞬く。

「ゆっくりしろ」

淡々とした口調。

けれどそこに、わずかな配慮が含まれている気がした。

私は戸惑いながらも、小さく頷く。

「……はい」
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