姉の身代わりに敵国に嫁いだら皇太子に溺愛されました
昨日の冷たい表情とは違い、どこか無防備で、静かで――

思わず見つめてしまう。

何もなかった初夜。

触れられることもなく、ただ同じ空間で夜を過ごしただけ。

――それで、いいのだろうか。

私は、皇太子妃としての務めを果たせているのだろうか。

そんな思いが胸をよぎる。

そっと体を起こすと、その気配に気づいたのか、ルシアン殿下がゆっくりと目を開けた。

「……起きたのか」

低く、まだ眠気を含んだ声。

「はい……おはようございます」

少しだけ緊張しながら言うと、彼は目を細めた。

「もっとゆっくりしていればいい」

意外な言葉だった。

「俺も今日は執務は休みだ」

そう言って、再び目を閉じる。

日頃の疲れが溜まっているのだろうか。

普段の彼からは想像できないほど、無防備に見えた。
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