姉の身代わりに敵国に嫁いだら皇太子に溺愛されました
しばらくその姿を見ていると、不思議と胸の奥が温かくなる。

――この人の隣にいたい。

そんな気持ちが、自然と浮かんできた。

私はそっと、もう一度横になり、彼の隣に身を寄せる。

わずかな距離。

それだけで、鼓動が速くなる。

「……あまり期待するな」

不意に、ルシアン殿下が呟いた。

目を閉じたままの声。

「俺は妾腹だ。幼い頃から、人を信じたことがない」

その言葉は、静かで――どこか重かった。

私は、思わず息を呑む。

「……それでも」

気づけば、言葉がこぼれていた。

「セレナさんのことは、信じていらっしゃるのでしょう?」

ほんの少しの沈黙。

次の瞬間、ルシアン殿下は背を向けた。

「……それとこれとは違う」

短く、それだけを言う。

それ以上、言葉は続かなかった。
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