姉の身代わりに敵国に嫁いだら皇太子に溺愛されました
それでも――ほんの少しだけ、考えてしまった。

もし、あの場にいるのが私だったなら。

もし、「国のために行け」と言われたら。

私は……拒めるだろうか。

いいえ。きっと、できない。

廊下に立ち尽くしたまま、私は静かに息を吐いた。

そしてその時、扉の向こうの沈黙が、ゆっくりと形を変えていくのを感じた。

――別の誰かが、選ばれる。

その予感が、なぜかはっきりと胸に落ちてきた。

「――リシェルを呼んできてくれ」

王の間の奥から、父の声が響いた。

その一言で、胸がひどくざわついた。

呼ばれる理由なんて、分かっている。

さっき聞いてしまった話――敵国との婚姻。

私は侍女に促されるまま、大広間へと足を運んだ。

重い扉が開かれる。

中に入った瞬間、空気がぴんと張りつめているのが分かった。
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