姉の身代わりに敵国に嫁いだら皇太子に溺愛されました
私はその場に立ち尽くしたまま、動くことができなかった。

足の先から、冷えていくような感覚。

胸の奥が、ぎゅっと締めつけられる。

――やっぱり。私はただの“代わり”。

あの人の隣にいるのは、本来ならあの人で。

あの人こそが、ルシアン殿下のそばにいるべき存在なのだ。

それでもほんの少しだけ、期待してしまっていた自分がいる。

昨日の朝の、あの穏やかな時間。

優しい言葉。あれは、ただの気まぐれだったのだろうか。

視界が、わずかに滲む。

けれど、涙はこぼれなかった。

ただ、胸が痛い。

どうしようもなく、痛い。

私は静かに踵を返す。

誰にも気づかれないように、ゆっくりと歩き出す。

自分の部屋へと戻るその道が、やけに長く感じられた。
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