姉の身代わりに敵国に嫁いだら皇太子に溺愛されました
それでも、私は立ち止まるわけにはいかなかった。

皇太子妃としての役割が、私にはある。

たとえそれが、形式だけのものだとしても。

朝は早くから始まる。

身支度を整え、侍女たちと確認を重ねながら、その日の予定に目を通す。

最初に求められるのは、国外からの使者の迎え入れ。

ルシアン殿下の隣に立ち、言葉を交わし、礼を尽くす。

隣にいるだけなのに、胸が静かに高鳴る。

けれど、殿下の表情はいつも変わらない。

冷静で、隙がなく、私を見ることもほとんどない。

ただ“そこにいるべき者”として、私は扱われている。

それでいい。そう、自分に言い聞かせる。

その後は、宮廷の一室で歴史を学ぶ時間。

この国の成り立ち、王族の系譜、外交の流れ――

覚えることは山ほどある。

間違えれば、恥をかくのは自分だけではない。

皇太子妃として、この国の顔でもあるのだから。
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