姉の身代わりに敵国に嫁いだら皇太子に溺愛されました
その繰り返し。

「……あの方が?」

小さく囁く声が、耳に入る。

「ええ、そうよ。あの“身代わりの皇太子妃”」

悪意のない、ただの事実のように言われるその言葉に、胸が静かに波打つ。

私は何も聞こえていないふりをして、歩みを止めなかった。

けれど、その声は続く。

「やっぱりね。エレノア様が来られなかったからって……」

「仕方なく、って感じよね」

「妾腹の方でしょう?それで皇太子妃だなんて……」

くすり、と小さな笑い声。

それ以上は聞かないように、私は少しだけ足を速めた。

――分かっていたことだ。

ここでは私は、歓迎される存在ではない。

正当な妃ではなく、“代わり”として送り込まれた存在。

それに加えて、妾の娘。

軽んじられて当然だと、頭では理解している。

それでもほんの少しだけ、胸が痛んだ。
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