姉の身代わりに敵国に嫁いだら皇太子に溺愛されました
まるで、そこにいる必要がなくなったかのように。

一人、取り残される。

広い会場の中で、ぽつんと。

グラスを持つ手が、わずかに冷える。

――大丈夫。私は、ここにいる理由を知っている。

誰に認められなくてもいい。

誰に軽んじられてもいい。

ただ、役目を果たせばいい。

そう思っているはずなのに。

どうしてこんなにも――胸の奥が、静かに痛むのだろう。

ふと、視線を上げる。

遠くでルシアン殿下が誰かと話している姿が見えた。

変わらず、冷静で、隙のない立ち姿。

その隣には、自然と人が集まる。

あの人の側は、あたたかく見えるのに。

私はそこに、入ることができない。

――それでも。私は、あの人の妻だ。

その事実だけを胸に抱いて、私はもう一度、小さく息を整えた。
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