姉の身代わりに敵国に嫁いだら皇太子に溺愛されました
それでも――

私は、ルシアン殿下から目を離すことができなかった。

分かっている。

あの人の隣にいるべき存在は、私ではない。

あの人が心を許しているのも、私ではない。

でも気づけば、視線は自然とその姿を探してしまう。

パーティー会場の中で、彼はいつも人に囲まれている。

貴族たちが言葉を交わし、笑みを浮かべ、敬意を払う。

その中心にいる彼は、やはり誰よりも目を引いた。

無駄のない立ち居振る舞い。

淡々としているのに、どこか人を惹きつける存在感。

遠くからでも、すぐに分かる。

――あの人だ、と。

私はグラスを手にしたまま、そっと視線を向ける。

気づかれないように。悟られないように。

ただ、見ているだけ。

それだけで、胸が少しだけ満たされる自分がいる。
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