姉の身代わりに敵国に嫁いだら皇太子に溺愛されました
「……どうして」

小さく、呟く。

どうしてこんなにも、目で追ってしまうのだろう。

この前の夜、聞いてしまった言葉。

“形だけの夫婦”

あれがすべてのはずなのに。

それでも彼がふと視線を動かすたびに、期待してしまう。

――もしかしたら、こちらを見てくれるかもしれないと。

けれど、その視線が私に向けられることは、ほとんどない。

ほんの一瞬、かすめる程度。

それだけで、胸が強く跳ねる。

たったそれだけで、嬉しいと思ってしまう自分がいる。

……愚かだ。分かっているのに。

「リシェル様」

名前を呼ばれ、はっと我に返る。

振り向くと、侍女のアンが控えていた。

「お飲み物を新しくお持ちいたしますか?」

「あ……いえ、大丈夫です」

慌てて笑みを作る。

きっと、気づかれてはいない。
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