姉の身代わりに敵国に嫁いだら皇太子に溺愛されました
この胸の内も、この視線の行方も。そう思いたい。

再び前を向くと、ルシアン殿下の姿は少し位置を変えていた。

誰かと会話を続けている。

その横顔が、ほんのわずかに緩んでいるように見えた。

――あの表情。思わず、息を呑む。

あんな顔をするのだと、初めて知った。

冷たいだけではない。

感情がないわけでもない。

ただ――それが向けられる相手が、私ではないだけ。

胸の奥が、じんわりと熱を帯びる。

苦しいのに、目を逸らせない。

むしろ、もっと見ていたいと思ってしまう。

あの人の仕草を。あの人の声を。

あの人の、ほんのわずかな変化を。

「……好きになってはいけないのに」

誰にも聞こえないほどの声で、そう呟く。

けれど、その言葉とは裏腹に、想いは少しずつ形を持ち始めていた。
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