姉の身代わりに敵国に嫁いだら皇太子に溺愛されました
止めようとしても、止められない。

知らないふりをしても、消えてはくれない。

視線を外そうとして――できなかった。

ルシアン殿下が、ふとこちらを見た気がしたから。

一瞬、目が合う。ほんの一瞬。

それだけなのに。心臓が、強く打ちつける。

時間が止まったような感覚。

けれど次の瞬間、彼は何事もなかったかのように視線を外した。

やはり、気のせいだったのかもしれない。

それでもその一瞬だけで、胸の奥が温かくなる。

――それでいい。

たとえそれが、勘違いでも。

たとえ何も返ってこなくても。

こうして、同じ場所にいて。同じ空気を感じて。

ほんの少しでも、同じ時間を共有できるのなら。

私はまた、視線を彼へと向ける。

気づかれないように、そっと。

それでも確かに――私は、彼を目で追い続けていた。
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