姉の身代わりに敵国に嫁いだら皇太子に溺愛されました
この日も、パーティーが催されていた。

音楽が流れ、笑い声が広がる、いつもの夜。

華やかで、どこか現実味のない空間。

私は皇太子妃として、その場に立っていた。

やがて曲が変わり、ダンスの時間が訪れる。

決められた流れの中で、私はルシアン殿下の前に立った。

差し出された手に、そっと自分の手を重ねる。

触れた瞬間、胸がわずかに高鳴った。

形だけのダンス。そう分かっているのに――

それでも、この時間だけは特別に感じてしまう。

ゆっくりと、音楽に合わせて歩みを進める。

一定の距離を保ったまま、視線は交わらない。

それが、この人との“普通”だった。

「……どうだ」

不意に、低い声が落ちる。

「生活には慣れたか」

少しだけ驚いて、顔を上げた。

「はい……お陰様で」

言葉を選びながら答える。
< 46 / 60 >

この作品をシェア

pagetop