姉の身代わりに敵国に嫁いだら皇太子に溺愛されました
ほんのひととき、心がほどけるような時間。

けれど。

「あら……誰かいらっしゃるようですね」

アンの言葉に、足を止める。

奥の方に、人影が見えた。

「どなたかしら……」

そっと近づき、視線を向ける。

その瞬間――息が止まった。

そこにいたのは、ルシアン殿下と……エレナだった。

二人は並んで立ち、何かを静かに話している。

その距離は近く、自然で――

まるで、長年連れ添った夫婦のようだった。

胸の奥が、ひどくざわつく。

――そこは、本来なら。

私が立つべき場所なのに。

言葉にならない想いが、じわりと広がる。

やがて二人は、薔薇園の奥にある小さな建物へと歩いていった。

「あちらは……」

アンが何か言いかけたが、私はすでに足を動かしていた。

気づけば、無意識のまま後を追っていた。
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