姉の身代わりに敵国に嫁いだら皇太子に溺愛されました
どうしても――確かめずにはいられなかった。

建物の窓に、そっと手をかける。

中を、覗き込む。

その瞬間。世界が、音を失ったように感じた。

ルシアン殿下が、エレナを引き寄せていた。

自然な動作で。迷いもなく。

そして――そのまま、唇を重ねる。

目を逸らすことができなかった。

それは、ほんの一瞬のことだったのかもしれない。

けれど私には、あまりにも長く感じられた。

そのあと、彼の手が彼女の肩に触れ、距離がさらに近づく。

言葉を交わさなくても分かる。

二人の間にあるもの。

それは、私には向けられたことのないものだった。

――ああ。やはり、そうなのだ。

私はただの“形だけの妻”。

本当に隣にいるのは、あの人。

胸の奥が、ぎゅっと締めつけられる。
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