姉の身代わりに敵国に嫁いだら皇太子に溺愛されました
私は“そのために”ここに呼ばれた。

胸が苦しい。

けれど、逃げる場所なんて最初からない。

「敵国に嫁げば、どのような扱いを受けるかは分からぬ」

父の声は、どこか低く沈んでいた。

「冷遇されるやもしれん。あるいは――」

そこから先は言葉にされなかった。

けれど、十分すぎるほど伝わってくる。

――もしかしたら、殺されるかもしれない。

頭の中に、そんな最悪の想像がよぎった。

思わず指先が震える。それでも。

「……リシェル」

父が、私の名を呼ぶ。

その声には、王としての責務が込められていた。

私は、ゆっくりと顔を上げた。

怖くないわけがない。

不安で、胸が押しつぶされそうになる。

それでも――私は、この国に生まれた。

そして、姉の“代わり”として生きてきた。
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