姉の身代わりに敵国に嫁いだら皇太子に溺愛されました
苦しい。

どうしようもなく、苦しい。

けれど。涙は、出なかった。

ただ、静かに痛みが広がっていくだけ。

私はそっと窓から離れる。

もう、これ以上見てはいけない。

そう分かっているのに、足がすぐには動かなかった。

「……リシェル様」

アンの小さな声が、背後から聞こえる。

私は何も言えず、ただ一度だけ目を閉じた。

そして――ゆっくりと、その場を離れた。

胸の奥に残った痛みだけが、消えずにそこにあった。
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