姉の身代わりに敵国に嫁いだら皇太子に溺愛されました
どうやって寝室まで戻ったのか、よく覚えていない。

気づけば扉の前に立っていて、気づけば中に入り、気づけば――その場に崩れ落ちていた。

「……っ」

喉の奥が、ひどく熱い。

呼吸がうまくできない。

胸の奥が締めつけられて、痛くて、どうしようもない。

「どうして……」

声にならない声が、こぼれる。

分かっていたはずなのに。

最初から、全部分かっていた。

あの人には、愛する人がいること。

私はただの“代わり”でしかないこと。

それなのにどうして、あんなものを見てしまったのだろう。

どうして、目を逸らせなかったのだろう。

「……好きになるんじゃ、なかった……」

ぽつりと、言葉が落ちる。

その瞬間、堰を切ったように涙が溢れ出した。

止めようとしても止まらない。
< 52 / 60 >

この作品をシェア

pagetop