姉の身代わりに敵国に嫁いだら皇太子に溺愛されました
思わず、息を呑む。

「……殿下?」

声をかけると、彼はソファに腰を下ろしたまま、こちらを一瞥した。

寝着のまま、紅茶を手にしている。

どこか気だるげで、無防備な姿。

いつもの張りつめた雰囲気とは違う。

「……珍しい、ですね」

小さく呟くと、彼は肩をすくめた。

「セレナに言われた」

「え……?」

「たまには妃の元へ行け、と怒られた」

あまりにもあっさりとした理由。

その言葉に、胸の奥がちくりと痛む。

それでも目の前にいる彼から、視線を外せなかった。

こんなふうに、くつろいだ姿を見るのは初めてで。

無防備で、どこかやわらかくて。

――やっぱり。

「……嫌いになんて、なれない」

思わず、小さくこぼれていた。

彼はわずかに眉を動かす。

「何か言ったか?」
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