姉の身代わりに敵国に嫁いだら皇太子に溺愛されました
「……いえ」

首を横に振る。

こんな想い、知られるわけにはいかない。

それでも、胸の奥の感情は消えてくれない。

私はゆっくりと近づいた。

「ルシアン殿下」

「どうした」

視線だけが向けられる。

「……もし」

言葉を選びながら、口を開く。

「セレナ様に、子どもが生まれたら……」

自分でも、なぜそんなことを聞いたのか分からない。

けれど、確かめずにはいられなかった。

ほんの一瞬の沈黙のあと、

「……生まれても、皇太子にはできない」

淡々とした答え。

それは、冷たい現実だった。

けれど同時に――どこかで、救われたような気もした。

その時、不意に、ルシアン殿下の手が伸びてくる。

私の髪に、そっと触れた。

「……っ」

驚いて、息が止まる。
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