姉の身代わりに敵国に嫁いだら皇太子に溺愛されました
「いらっしゃいますよ」

その声は、迷いがなかった。

「夫婦だって、もともとは恋人同士の延長ですもの」

――恋人同士。

その言葉が、胸に静かに落ちる。

私たちは、違う。

最初から、そういう関係ではなかった。

それでも。

ほんの少しだけ、その言葉にすがりたくなる自分がいる。

「……そう、ね」

小さく呟きながら、窓の外へと視線を向ける。

中庭では、騎士たちが鍛錬をしていた。

その中に――すぐに見つけることができる。

ルシアン殿下の姿。

無駄のない動き。しなやかで、力強くて。

その一つ一つに、自然と目を奪われる。

思わず、身を乗り出していた。

もっとよく見たくて。

もっと近くで感じたくて。

その時、ふと、騎士の一人がこちらに気づいた。

慌てて姿勢を正し、深く頭を下げる。

それに気づいた他の者たちも、次々と動きを止めた。
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