姉の身代わりに敵国に嫁いだら皇太子に溺愛されました
分かっているのだ。

誰よりも、この国の状況を理解しているのは――皇太子である兄自身だから。

それでも。

「……それでも、リシェルを差し出すしかないのですか」

絞り出すような声だった。

父王は、ゆっくりと目を閉じる。

「……ああ」

短い答え。それが、この国のすべてだった。

胸が、静かに締めつけられる。

兄が、私の方を見た。

「リシェル……本当に、いいのか?」

その瞳には、迷いと、悔しさと、そして――優しさがあった。

私は、一瞬だけ視線を揺らす。

怖い。行きたくない。できることなら、ここにいたい。

けれどそれ以上に、はっきりと分かってしまっている。

――これは、私にしかできないことだと。

私は、そっと微笑んだ。

「……はい、兄様」
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