龍と白衣の天使
総長様
「……預かるって、どういうこと」
かすれた声でそう返すのが、やっとだった。
「そのままの意味だ」
あっさりと言い切られて、言葉を失う。
「死にたいなら、好きに死なせるわけねぇだろ」
「……っ」
「お前の命は、今から俺のもんだ」
強引で、乱暴なはずの言葉なのに。
どうしてか――
嫌じゃなかった。
むしろ、胸の奥がじんわりと熱くなる。
「……なんで、そんなこと」
「言っただろ」
少しだけ目を細めて、煌さんは言う。
「気に入った」
――また、それだ。
たったそれだけで、全部許されるみたいな気がしてしまう。
「連れていきますか」
背後で誰かが低く問う。
「当たり前だ」
迷いのない声。
「でも、私……」
学校も、寮も、全部あるのに。
そんな私の迷いを見透かしたみたいに、
「心配すんな」
ふっと、少しだけ柔らかく笑う。
「全部こっちでなんとかしてやる」
――逃げ道なんて、最初からなかった。
「……来い」
差し出された手。
少しだけ震える指先を見つめてから、
私は――
その手を、取った。
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夜の街を走る黒い車の中。
窓の外には、見慣れない景色が流れていく。
「……どこに行くんですか」
「すぐ分かる」
短い返事。
隣に座る煌さんは、もうすっかり“さっきの人”じゃなくて。
静かで、圧倒的で。
触れたら壊れそうなのに、誰よりも強い。
――怖いはずなのに。
どうしてか、安心している自分がいた。
「つむぎ」
不意に名前を呼ばれて、顔を上げる。
「はい」
「今日から、お前はこっち側だ」
まっすぐに告げられる。
逃げ場なんてない言葉。
それでも――
「……はい」
私は、小さく頷いていた。
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車が止まった先にあったのは、
まるで城みたいに大きな建物だった。
「ここが――」
息を呑む私に、
「orientalemの拠点だ」
煌さんが当然みたいに言う。
重たい扉が開くと同時に、
中にいた人たちの視線が一斉にこちらへ向いた。
「総長、お帰りなさいませ」
揃った声。
その中心で、煌さんは私の肩を引き寄せる。
「紹介する」
低く、よく通る声。
「こいつはつむぎ」
一瞬の間。
「俺のもんだ」
――空気が、凍った。
「医療に回す」
ざわり、と周囲が揺れる。
「以後、こいつに手ぇ出したら殺す」
静かなのに、逆らえない声。
その言葉の意味を理解した瞬間、
心臓が大きく鳴った。
「行くぞ」
当たり前みたいに手を引かれて、
私は、知らない世界へ踏み込んでいく。
――この日から。
私の“普通”は、完全に終わった。
そして何が始まるのだろうか。