有罪愛

 俺は財力をつけると共にキックボクシングを習い始め、父親にフィジカルで抵抗できるよう努力していった。

 今までの自分が扶養される〝弱者〟なら、自ら〝強者〟となって抗うしかない。

 高校二、三年生になると、毎日が父親との格闘の連続だった。

 こちらは就職を見据えて難関大学に合格しなければならないのに、いつまでもショタコンジジイに構っていられない。

 殴り、蹴って抵抗すれば『親に向かってなんだその態度は!』と怒鳴られ、殴られた。

 ――じゃあ、お前が今までやっていた事は〝親〟らしい事なのかよ!

 ――俺が今までどれだけ、周囲と〝違う〟事に悩み続けてきたか、お前には分からないだろう!

 自立心を持ち、しっかりと自我を持った当時の俺は、怒りに荒れ狂っていた。

 家にいる時間を減らしたいから、学校が終わったあとは塾や図書館、ファミレスで猛勉強していた。

 相変わらず女子からは頻繁に告白されていたが、付き合うつもりはまったくなかった。

 当時の俺の目標は『家から出て人間らしく生きる』事なのに、優しい両親のもとで育ち、ほんの些細な事で嘆く彼女たちと価値観が合うはずがない。

 親に加害されず、学費もスマホ代も払ってもらい、小遣いももらっている身で、門限に間に合わなかっただの、スマホの使用時間を制限されただの、実にくだらない事で『親ムカつく。死ねばいいのに』と言っている。

 そんなガキを信頼するなんてできない。

 ――どいつもこいつもくだらない。

 そう思ううちに、俺は自分こそが世界で一番不幸な存在だと思うようになり、友人の悩み事を聞いて『それで?』と内心でせせら笑う性悪になっていた。

 こんな俺の本性を知って愛する人などいないだろうし、俺だって誰も受け入れない。

 自分の体にあの変態の血が流れていると思うだけでおぞましいし、遺伝子を後世に残したくもない。

 だから俺は絶対に女性と付き合わないし、結婚もしない。

 固く決意した俺は受験勉強に身を入れ、無事に目標大学に合格した。

 その時は喜びのあまり、泣いてしまったほどだ。

 ――これでやっと、〝人〟になれる!

 ――あの家で飼われていた豚は、〝外〟の世界で自分の人生を歩むんだ!

 解放感に浸って家を出る俺は、春佳が寂しがっているのを見ても『もうここには二度と戻らない』としか思えなかった。

 だが一人暮らしをするにはハードルがあった。

 十八歳になれば自分で契約して賃貸物件に住めるが、そのためには連帯保証人が必要となる。

 新しい住まいを父親に教えたくなかった俺は、祖父に頭を下げた。

 そして勇気を出し、これまで自分が性的虐待を受けていた事を打ち明け、どうしても実家から離れたいのだと訴えた。

 祖父は筋の通らない事を嫌う厳格な人で、案の定息子の行いに怒り狂った。

 父の昇進を取り消した祖父は、自宅に息子を呼びつけて数時間説教したらしかった。

 祖母は泣き、すさまじい修羅場だったと、祖父の家に通う家政婦からこっそり聞いた。

 事が済んでから祖父から正式な詫びがあり、今後俺が一人暮らししていくのに、十分な保証をするという約束をもらえた。

 他にも祖父が死んだあとの遺産相続について、父の取り分を大きく減らすなど言っていたが、その辺りはどうでも良かった。

 ただ、何も知らない妹が心配なので、定期的に実家の様子を見て、春佳を気に掛けてほしいと頭を下げてお願いした。

 祖父に大目玉を食らった父は反省したのか、その後、家を出た俺につきまとう事はなく、ひとまず安心する事ができた。

 家に残された春佳が心配だったが、幸いにも父親が性的に興味を示したのは、俺だけだったようだ。

 普通の男なら女の子に興味を抱くはずだが、なぜかあいつは俺だけに執着していた。

 春佳が成長すれば、いつかあいつの毒牙に掛かるのでは……と思っていたが、あいつが娘に興味を持つ事はなかった。

 とはいえ、自分だけ鬼の棲まいから脱出できても、妹が気になって仕方がないのは変わらない。

 俺は彼女にスマホを買い与え、日々の報告を求めた。

 大学に通いながら妹と住むための基盤を整えている途中、祖父に自分の会社に入らないかと尋ねられたが、父親と同じ会社に勤めるなど御免だ。

『俺は自分の力で生きるから、気にしないで』

 断ると、祖父はそれ以上無理強いしてこなかった。

 俺が大学生活を満喫する一方で、春佳は初めて男と付き合ったようだった。

 相手は野球部のガキらしく、春佳はメールで【告白されちゃった】と照れている。

 そのメールを見た瞬間、全身の血が沸騰するような怒りを抱いた。

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