有罪愛
『勿論です! ……うちの親も春佳の家庭事情は知っているんです。〝友達としてできる事をしたい〟と言ったら、親も〝そうしなさい〟と言っていました』
『外泊になるけど、千絵ちゃんは大丈夫?』
『大丈夫です! 女子同士ですし、妹想いの冬夜さんのお願いなら絶対に大丈夫! うちの両親も春佳に〝女子大生らしく青春を謳歌してほしい〟と言っていますし』
千絵はグッと親指を立てて言い、少し照れくさそうな顔で続けた。
『親に〝春佳には妹想いの素敵なお兄さんがいる〟って話してたんです。で、写真も見せちゃいました。母ったら〝イケメンね〟ってはしゃいでたんですよ。瀧沢兄妹はうちの家族に評判がいいですし、本当に大丈夫』
『良かった』
いつか千絵を利用するかもしれないからと、優しく接し続けてきたかいがあった。
『じゃあ、七月、春佳を宜しくお願いします。楽しい思い出を作ってあげて』
『こちらこそ、ありがとうございます! しっかり楽しんできますね。お土産も買いますから!』
そのあとは春佳の大学での様子を聞きながらお茶をし、一時間後には店を出て別れた。
春佳を家から出す手立ては整えたので、あとは母親を外出させるだけだ。
母は懸賞を趣味にし、毎日サイトをチェックしてはあらゆる物に応募している。
実際に当選した事もあったが、賞品が送られてくる時は予告なく現物が送られてくる。
それを利用し、俺は自宅に箱根にある温泉旅館のペアチケットを送る事にした。
母の事だから、いきなり宿泊券が当たっても『無数に応募した懸賞の中の何かが当たった』としか思わないだろう。
それに宿泊券が当たっても、母は決して夫を誘わない。
物心ついた時から夫婦生活は破綻していて、〝家族〟を演じるために外出はしても帰宅したあとは他人のように接し、極力関わらずに生活していた。
両親が夜の営みをしていた気配もないし、仲良く話したりテレビを見たりもない。
きっと母は父親が俺を犯している姿を見て、とっくに夫に愛想を尽かしたんだろう。
だから宿泊券が当たっても、絶対に夫を誘わない確信があった。
俺は箱根の温泉旅館に連絡して宿泊券を発行してもらう事にした。
『母親と親子関係がうまくいっておらず、僕の名前が出ると母は不機嫌になるので、懸賞が当たった体で宿泊券を送りたいんです。日時を指定した宿泊券に食事やエステ等のサービスもつけてください』
宿泊業では色んな〝事情〟を持つ客がいるので、スタッフは快く受け入れてくれた。
〝決行〟する日時を指定した宿泊券は、五月下旬には自宅に発送されるそうだ。
やがて春佳から連絡があった。
【お母さん、七月の連休に箱根に行くみたい。そのタイミングで千絵から旅行に誘われたんだけど、どう思う?】
俺はうまくいったとほくそ笑みながら、兄として返事をする。
【いいんじゃないか? たまには羽を伸ばせよ。母さんはチェックアウトしたあと観光するだろうし、移動時間もある。だから早めに帰れば鉢合わせずに済むと思う。親父には『言わないで』って言えば聞き入れてくれるんじゃないか?】
【分かった。そうする。ああ……! 楽しみだな!】
【俺も七月の連休は京都に行く予定だ。行き先は違うけど、それぞれ連休を楽しもう。お土産を買うから楽しみにしててくれ】
【京都、いいなぁ! 楽しんでね! お土産楽しみにしてる! 私も何か買うね!】
俺は無邪気に喜ぶ春佳のメッセージを見ながら、暗い目で微笑んでいた。
――ごめんな。お前が楽しい旅行から帰ったあと、親父はきっと死んでる。
三月に父親がマンションに訪れた時、春佳に連絡がつかなかった理由を聞けば、〝スマホを落とした〟からと言っていた。
数日後に無事にスマホを発見したと連絡があり、【電話をくれたのにごめんね】と謝られた時は、安堵のあまり膝から崩れ落ちそうになった。
『父親にレイプされたのか?』と尋ねたかったが、【何か変わった事はないか?】と尋ねるしかできなかった。
それに対し、春佳は【何もないよ】としか言わない。
昔、俺も『動揺すれば周りにバレてしまう』と思い、何事もなかったように過ごすしかなかった。
だから妹の気持ちは痛いほど分かる。
俺に心配させまいと、酷いトラウマに苛まれた春佳が必死に平気なふりをしていると思うと、胸の奥が荒れ狂う。
――絶対に殺してやる。
――お前は、絶対にしてはいけない事をした。
――俺ならまだしも、春佳だけには手を出してはいけなかったのに。
妹の笑顔を思いだすたび、涙が溢れて止まらない。
『外泊になるけど、千絵ちゃんは大丈夫?』
『大丈夫です! 女子同士ですし、妹想いの冬夜さんのお願いなら絶対に大丈夫! うちの両親も春佳に〝女子大生らしく青春を謳歌してほしい〟と言っていますし』
千絵はグッと親指を立てて言い、少し照れくさそうな顔で続けた。
『親に〝春佳には妹想いの素敵なお兄さんがいる〟って話してたんです。で、写真も見せちゃいました。母ったら〝イケメンね〟ってはしゃいでたんですよ。瀧沢兄妹はうちの家族に評判がいいですし、本当に大丈夫』
『良かった』
いつか千絵を利用するかもしれないからと、優しく接し続けてきたかいがあった。
『じゃあ、七月、春佳を宜しくお願いします。楽しい思い出を作ってあげて』
『こちらこそ、ありがとうございます! しっかり楽しんできますね。お土産も買いますから!』
そのあとは春佳の大学での様子を聞きながらお茶をし、一時間後には店を出て別れた。
春佳を家から出す手立ては整えたので、あとは母親を外出させるだけだ。
母は懸賞を趣味にし、毎日サイトをチェックしてはあらゆる物に応募している。
実際に当選した事もあったが、賞品が送られてくる時は予告なく現物が送られてくる。
それを利用し、俺は自宅に箱根にある温泉旅館のペアチケットを送る事にした。
母の事だから、いきなり宿泊券が当たっても『無数に応募した懸賞の中の何かが当たった』としか思わないだろう。
それに宿泊券が当たっても、母は決して夫を誘わない。
物心ついた時から夫婦生活は破綻していて、〝家族〟を演じるために外出はしても帰宅したあとは他人のように接し、極力関わらずに生活していた。
両親が夜の営みをしていた気配もないし、仲良く話したりテレビを見たりもない。
きっと母は父親が俺を犯している姿を見て、とっくに夫に愛想を尽かしたんだろう。
だから宿泊券が当たっても、絶対に夫を誘わない確信があった。
俺は箱根の温泉旅館に連絡して宿泊券を発行してもらう事にした。
『母親と親子関係がうまくいっておらず、僕の名前が出ると母は不機嫌になるので、懸賞が当たった体で宿泊券を送りたいんです。日時を指定した宿泊券に食事やエステ等のサービスもつけてください』
宿泊業では色んな〝事情〟を持つ客がいるので、スタッフは快く受け入れてくれた。
〝決行〟する日時を指定した宿泊券は、五月下旬には自宅に発送されるそうだ。
やがて春佳から連絡があった。
【お母さん、七月の連休に箱根に行くみたい。そのタイミングで千絵から旅行に誘われたんだけど、どう思う?】
俺はうまくいったとほくそ笑みながら、兄として返事をする。
【いいんじゃないか? たまには羽を伸ばせよ。母さんはチェックアウトしたあと観光するだろうし、移動時間もある。だから早めに帰れば鉢合わせずに済むと思う。親父には『言わないで』って言えば聞き入れてくれるんじゃないか?】
【分かった。そうする。ああ……! 楽しみだな!】
【俺も七月の連休は京都に行く予定だ。行き先は違うけど、それぞれ連休を楽しもう。お土産を買うから楽しみにしててくれ】
【京都、いいなぁ! 楽しんでね! お土産楽しみにしてる! 私も何か買うね!】
俺は無邪気に喜ぶ春佳のメッセージを見ながら、暗い目で微笑んでいた。
――ごめんな。お前が楽しい旅行から帰ったあと、親父はきっと死んでる。
三月に父親がマンションに訪れた時、春佳に連絡がつかなかった理由を聞けば、〝スマホを落とした〟からと言っていた。
数日後に無事にスマホを発見したと連絡があり、【電話をくれたのにごめんね】と謝られた時は、安堵のあまり膝から崩れ落ちそうになった。
『父親にレイプされたのか?』と尋ねたかったが、【何か変わった事はないか?】と尋ねるしかできなかった。
それに対し、春佳は【何もないよ】としか言わない。
昔、俺も『動揺すれば周りにバレてしまう』と思い、何事もなかったように過ごすしかなかった。
だから妹の気持ちは痛いほど分かる。
俺に心配させまいと、酷いトラウマに苛まれた春佳が必死に平気なふりをしていると思うと、胸の奥が荒れ狂う。
――絶対に殺してやる。
――お前は、絶対にしてはいけない事をした。
――俺ならまだしも、春佳だけには手を出してはいけなかったのに。
妹の笑顔を思いだすたび、涙が溢れて止まらない。