有罪愛
メッセージを見ると酷い申し訳なさを感じたが、そのあとは冷静に対応し、警察の事情聴取に応じ、葬儀の手配をすると答えた。
東京に戻ったあと、荷物をマンションに置いてすぐ実家に向かい、動揺した春佳を慰め、呆然としている母親にも声を掛けた。
一見自殺に見えるとしても、事件性がないか検視するらしく、警察は俺たち家族に話を聞いたあと、数日父の遺体を預かるそうだ。
警察から連絡があるまで、俺は祖父母の協力を得て葬儀会社に連絡し、訃報を出す準備や死亡届や火葬許可申請の用意を進めた。
祖母は泣き崩れ、祖父は悲しみをグッと堪えつつも少しだけ涙を零した。
だがそのあとにこうも言っていた。
『あいつはまともに育たなかったから、死ぬ時も普通には死なない気がしていた』
祖父は父親が俺にした事を知ってから、息子にとても冷たく当たっていた。
怒ったような顔で言ったものの、祖父の表情にはやりきれなさと悲しみが宿っている。
血が繋がっているからこそ、祖父は息子がなぜ実の息子に性暴力をふるったのか、理解できなかったのだろう。
理由を知りたいと思っても、頭が固くなった祖父が冷静に息子と話せるはずがない。
父親も雄弁な人ではなかったし、あの調子なら一生真実を口にしなかったはずだ。
結局、心理的にはあいつの一人勝ちになった気持ちになり、悔しくもある。
最期まであいつは、何を考えているか分からない怪物のままだった。
死後の様々な手続きをしていく傍ら、春佳と遺品整理をしていると遺書が見つかった。
見つけた瞬間ギクリとしたが、母と春佳に『俺は喪主だから』と理由をつけ、最初に遺書に目を通した。
意外にも、遺書は俺についてまったく触れておらず、自殺で家族に迷惑が掛からないようにと心配する内容だけが書かれてあった。
『他に遺書らしき物はなかったか?』
『ないみたい』
俺は春佳が首を左右に振ったのを見て微かに息を吐く。
その向こうで、憔悴しきった母はぼんやりと沈黙していた。
やがて検視が終わって事件性はないと判断されたあと、葬儀を行う流れとなった。
葬儀が終わったあと、母はともかく春佳が心配なので、俺は我慢して実家に通い、しばし二人の面倒を見る事にする。
母親は以前にも増して自分の世界に籠もるようになり、ときおり俺や春佳に恨みがましい目を向ける。
冷えた夫婦と思っていたのに母親は夫を愛していたようで、さめざめと泣いたかと思えば、酒を飲んで悲しみをごまかすようになった。
元から精神科の薬を服用していたので、酒を控えるように言っても『うるさい!』と怒鳴られるだけだ。
(このままでは春佳の手に余る)
俺は強い懸念を抱くようになった。
やがて春佳の合コン事件があり、俺はますます妹への執着を深め、彼女を側に置きたい願望を強める。
大切な妹に下品な男が触ったと思うと、激しい怒りを抱くと同時に、守れない自分の不甲斐なさに酷く落ち込んだ。
行きずりの男が春佳に触るなんて、あってはいけない。
なのに『大学生だし、ストレスが溜まっているから息抜きは必要だ』と理解を示した挙げ句――、こんな事になってしまった。
父親に汚されたのに、さらに初対面の男に迫られ、怖くなかったはずがない。
――俺だって怖かった。
春佳が深く傷付いたと思うと、トラウマが蘇って自分の事のようにつらくなる。
――すまない。
――守れなくて悪かった。
――今度からはちゃんとするから。
俺は客室で寝ている春佳を見て、一人で静かに嗚咽した。
春佳はそんな目に遭っても実家を離れず、頑なに『母親の面倒を見る』と言い張って聞かない。
その矢先、岩淵の事件があった。
目の前で犯されかけている妹を見た瞬間、合コンの時以上の激しい怒りが全身を包む。
同時に、少年時代に父親に犯された自分を思いだした。
――助けて!
あの時は誰に助けを求めても、誰も返事をしてくれなかったし、救われなかった。
――だが今は……!
東京に戻ったあと、荷物をマンションに置いてすぐ実家に向かい、動揺した春佳を慰め、呆然としている母親にも声を掛けた。
一見自殺に見えるとしても、事件性がないか検視するらしく、警察は俺たち家族に話を聞いたあと、数日父の遺体を預かるそうだ。
警察から連絡があるまで、俺は祖父母の協力を得て葬儀会社に連絡し、訃報を出す準備や死亡届や火葬許可申請の用意を進めた。
祖母は泣き崩れ、祖父は悲しみをグッと堪えつつも少しだけ涙を零した。
だがそのあとにこうも言っていた。
『あいつはまともに育たなかったから、死ぬ時も普通には死なない気がしていた』
祖父は父親が俺にした事を知ってから、息子にとても冷たく当たっていた。
怒ったような顔で言ったものの、祖父の表情にはやりきれなさと悲しみが宿っている。
血が繋がっているからこそ、祖父は息子がなぜ実の息子に性暴力をふるったのか、理解できなかったのだろう。
理由を知りたいと思っても、頭が固くなった祖父が冷静に息子と話せるはずがない。
父親も雄弁な人ではなかったし、あの調子なら一生真実を口にしなかったはずだ。
結局、心理的にはあいつの一人勝ちになった気持ちになり、悔しくもある。
最期まであいつは、何を考えているか分からない怪物のままだった。
死後の様々な手続きをしていく傍ら、春佳と遺品整理をしていると遺書が見つかった。
見つけた瞬間ギクリとしたが、母と春佳に『俺は喪主だから』と理由をつけ、最初に遺書に目を通した。
意外にも、遺書は俺についてまったく触れておらず、自殺で家族に迷惑が掛からないようにと心配する内容だけが書かれてあった。
『他に遺書らしき物はなかったか?』
『ないみたい』
俺は春佳が首を左右に振ったのを見て微かに息を吐く。
その向こうで、憔悴しきった母はぼんやりと沈黙していた。
やがて検視が終わって事件性はないと判断されたあと、葬儀を行う流れとなった。
葬儀が終わったあと、母はともかく春佳が心配なので、俺は我慢して実家に通い、しばし二人の面倒を見る事にする。
母親は以前にも増して自分の世界に籠もるようになり、ときおり俺や春佳に恨みがましい目を向ける。
冷えた夫婦と思っていたのに母親は夫を愛していたようで、さめざめと泣いたかと思えば、酒を飲んで悲しみをごまかすようになった。
元から精神科の薬を服用していたので、酒を控えるように言っても『うるさい!』と怒鳴られるだけだ。
(このままでは春佳の手に余る)
俺は強い懸念を抱くようになった。
やがて春佳の合コン事件があり、俺はますます妹への執着を深め、彼女を側に置きたい願望を強める。
大切な妹に下品な男が触ったと思うと、激しい怒りを抱くと同時に、守れない自分の不甲斐なさに酷く落ち込んだ。
行きずりの男が春佳に触るなんて、あってはいけない。
なのに『大学生だし、ストレスが溜まっているから息抜きは必要だ』と理解を示した挙げ句――、こんな事になってしまった。
父親に汚されたのに、さらに初対面の男に迫られ、怖くなかったはずがない。
――俺だって怖かった。
春佳が深く傷付いたと思うと、トラウマが蘇って自分の事のようにつらくなる。
――すまない。
――守れなくて悪かった。
――今度からはちゃんとするから。
俺は客室で寝ている春佳を見て、一人で静かに嗚咽した。
春佳はそんな目に遭っても実家を離れず、頑なに『母親の面倒を見る』と言い張って聞かない。
その矢先、岩淵の事件があった。
目の前で犯されかけている妹を見た瞬間、合コンの時以上の激しい怒りが全身を包む。
同時に、少年時代に父親に犯された自分を思いだした。
――助けて!
あの時は誰に助けを求めても、誰も返事をしてくれなかったし、救われなかった。
――だが今は……!