有罪愛
 ――春佳だけは、俺が守る!

 俺は妹の華奢な体に覆い被さる全裸の中年男を掴み、引きずってなぎ倒し、思い切り蹴り、馬乗りになって殴りに殴った。

 ――このやろう!

 ――子供相手になにしてるんだ!

 ――この変質者め! 死ね! 死んで詫びろ!

 俺は拳にすべての怒りを込め、岩淵が動けなくなるまで殴り続けた。

 ――こいつは、社会的に殺す。

 ――今後二度と、俺たちに近づけなくしてやる。

 満足いくまで殴ったあと、俺はだらしなく床の上に横たわる岩淵の姿をカメラに収め、縮こまったモノも何もかも、赤裸々に写した。

 そして呼吸を整えたあと、冷酷に吐き捨てる。

『……あんたが警察に行くのは勝手だが、こっちもあんたの弱みを握っている事を忘れるなよ? 念のため名刺はもらっていくからな』

 言い捨てたあと、俺は傷付いた妹を自分のマンションに迎えた。







 春佳は大きなショックを受けて初めて、異常な環境にいたと気づいたようだった。

 俺は当分妹を実家に帰さないつもりでいた。

 後日一人で実家に向かった俺は、母親の罵詈雑言を無視して春佳の荷物をスーツケースに詰めた。

『お前、岩淵さんになんて事をしてくれたの! 傷害事件よ!』

 俺は金切り声で叫ぶ中年女の声を無視し続ける。

 こいつは何かあれば大声を出せばいいと思っている。

 春佳は優しくて従順だから、言う事を聞かせる事で娘に依存していたんだろう。

 だが俺は違う。

『お前こそ、夫が死んだ直後なのになんで男を家に入れてるんだよ。娘があの男に色目を使われてるって分かっていたんだろ? 分かっていながらお前は〝母〟であるより〝女〟でいる事を望み、その結果、春佳は襲われた。……お前、それでも母親かよ。俺が駆けつけなかったら、春佳はレイプされてたんだぞ。母親なのにそうなる事を望んでいたっていうのか!?』

 怒りを叩きつけると、母親は表情を歪めて俺を睨み付ける。

『言いたい事があるなら言えよ。俺が納得する理由があるなら聞いてやる』

 勿論、そんなものないに決まっている。

 母親は歯を食いしばって肩を震わせたあと、『あんたに何が分かるの』と吐き捨てた。

『自分の子供をレイプさせる親の気持ちなんて分かりたくもねーよ。……ああ、お前は〝分かっていても無視する〟のが得意なんだっけ』

 せせら笑うと、母親は涙を流し始めた。

『はっ、泣きたいのはこっちだよ』

 俺は吐き捨てるように言うと、机の引き出しを開けてスーツケースに詰めていく。

 ――と、年月と金額をメモした茶封筒を見つけ、すぐ春佳の金だと気づく。

 しかし細かに記している割には封筒がペラペラなので、申し訳ないと思いながら中身を覗いた。

『……おい。なんで金が入ってないんだよ』

 怒りの籠もった目を母親に向けると、あいつはばつの悪そうな顔で視線を逸らす。

 それですべてを察した俺は、あまりの胸糞悪さに大きく息を吸って震わせながら吐く。

『……お前はいつもそうだよ。口先だけ母親ぶって、親らしい事なんて一度もしない。できるのはガキみたいに自分勝手に振る舞い、機嫌が悪くなったら春佳の優しさに依存して感情を叩きつける事だけ。精神的に搾取するだけじゃなく、金銭的にも搾取し続けた。自分は男を連れこんだくせに、春佳が喫茶店でバイトをしたいと言ったら〝いかがわしい〟だと? どの口が言ってるんだよ!』

『~~~~っ、だっていかがわしいじゃない! 飲食店で働いたら、どこで変な男に目を付けられるか分からないでしょ!』

『お前が言えた事かよ! 母親ぶるならもっと春佳を守ってから言え! お前がそうやって感情的になるから、春佳は人の感情を窺って生きる子になった。こんなお前でも母親だから、どんなに面倒臭い事を言っても見捨てず、愛そうとした! お前しか母親がいないからだよ! 春佳は心をすり減らしながらも愛されようと願ったのに、お前はあの子に何をした? 何もしてないだろ! むしろ奪ってばかりだ!』

 怒鳴りつけると、母親は顔を強張らせ、ワナワナと両手を震わせて耳を塞いだ。

 一度口を開くと、開けられたパンドラの箱のように、長年抑圧されてきた憎しみが噴き出した。

『二度と春佳の前に現れるな! お前に母親を名乗る資格なんてない! 瀧沢家は最初から崩壊していたんだ。お前に幸せな家庭を築く能力なんてないし、飛び降りたあの男だって父親になる資格はなかった!』

 そこまで言った時、母親が俺の頬を叩いた。


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