有罪愛
『私の事はなんと言ってもいい! 春佳を愛せなかったのは事実だもの! ……っでも、お父さんの事を悪く言うのは許さない! あの人がどんな思いでお前を育ててきたか、何一つ分かっていないくせに!』

『息子をレイプする父親の心理なんて、知りたくもねぇよ!』

 俺は怒鳴り返し、母親を叩き返した。

 これ以上何を言っても分かり合えないと思った俺は、母親に背を向けた。

『今後二度と、俺たちに連絡してくるな。春佳も俺も家政婦じゃない。四十六歳なら自分の力で生きろ』

 俺は冷たく言い放ち、二度と母親を振り返らずに実家を出た。

『今度こそ戻らない』と誓いながら――。







 その後、母親が自殺未遂をし、外科手術を行ったあと精神科に入院した。

 恐らく俺の言葉が原因だろうが、良心の呵責はいっさい感じなかった。

 なのに春佳は『自分のせいだ』と言い、せっかく鬼の棲まいから抜け出せたのに、毒母の事ばかり気に掛ける。

 俺がどれだけ美味い物を食わせても、流行りの服やアクセサリーをプレゼントしても、春佳はいつも上の空だ。

 やっと一緒に住めるようになった彼女をもっと存分に味わいたいと思った俺は、家の中に隠しカメラをつけ、春佳を撮影し始めた。

 当然バスルームや洗面所にはつけていない。一線を越えれば犯罪者になる。

 だがリビングや自室で過ごす姿ぐらいは……と思い、特に可愛い角度があった時は切り取って画像保存するようになった。

 我ながら常軌を逸しているのは自覚している。

 けれど長い間、妹と暮らす事を夢見てようやく願いが叶ったのだから、しばらくは可愛い春佳との生活を満喫させてほしいと願った。

 しかし当の春佳は、母親を想っていつも憂い顔だ。

 俺がどれだけ彼女を想い、大切にしてるのか春佳は気づいていない。

 彼女が俺を自慢の兄と思っているのは分かっているし、他の男に目が向けられなくなっているのも自覚している。

 ――そこまで想っているなら、もう一歩俺に近づけよ。

 ――罪悪感なんて捨てて、俺の手をとって二人で幸せになろう。

 俺が両腕を広げて待っているのに、春佳はいつまでも毒親を気にし続けている。

 ――だから、苛ついて少し仕掛ける事にした。

 俺は春佳に知られないように、千絵にメッセージを送った。

【またお願いがあるんだけど、いいかな?】

【なんでしょうか?】

【春佳はいまだに両親を気にし続けている。父親の死は仕方ないが、母親が入院した事にも罪悪感を抱いて、自由な生活を楽しめていない】

【確かに。大学でもお母さんを心配してばかりで、私が気分転換に遊びに誘っても、いつも上の空です】

【それで、ショック療法を試そうと思っているんだけど……】

【ショック療法?】

 俺はうっすら笑いながらスマホのキーボードをフリックしていく。

【俺に恋人がいるかもしれないと知ったら驚いて、考え事ばかりの状態から脱するんじゃないかと思うんだ。〝外〟の世界には、家族以外との交流があると教えたい。世界は家族と友達だけでできているんじゃなくて、もっと沢山の人がいると気づいてほしいんだ】

 それらしい言葉で誤魔化すと、千絵は自分の都合のいいように解釈してくれた。

【そうですね。新しいバイトも楽しそうですが、大学では依然、人づきあいが下手です。冬夜さんに彼女がいると知ったら、『自分も彼氏を探していいんだ』って思うかもしれませんね】

 ――春佳が男を見つけてきたら、厳しく審査してやるけどな。

 俺は薄ら笑いを浮かべ、スマホをタップする。

【概要はそんな感じだ。同じ店で遭遇するように仕向けられないかな。俺は会社の先輩を連れていく。勿論、ただの先輩だ。このショック療法がいい方向に転べばいいけど】

【分かりました! 協力します!】

 俺はすぐに了承した千絵の扱いやすさに感謝し、詳細が決まったら連絡すると伝えた。







 会社の先輩の小村沙由紀さんは、俺より二つ年上の女性で、面倒見のいい人だ。

 年上の彼氏がいて、何年にもわたる交際は順調。

 来年には結婚すると言っている彼女を利用するのは忍びないが、小村さんは容姿端麗だし、春佳を嫉妬させるには丁度いい。

 鉢合わせる予定の店は、代々木上原に決めた。

 俺が務めている会社は新宿にあり、店に比較的近いので先輩を誘うのに丁度いい。

 自宅マンションは佃で、春佳が通っている大学は白山。

 春佳の生活圏から離れた店なので、のちに小村さんと遭遇する確率は、ほぼゼロに等しいと思っていた。







 しかし春佳は予想外の事を言った。


< 43 / 49 >

この作品をシェア

pagetop