有罪愛
『瀧沢くん、大丈夫?』

 優那は私に笑いかけ、学生服についた泥をパンパンと払う。

『ありがとう。……でも、どうして僕なんかを……』

 そう尋ねると、彼女は女神のように笑って言う。

『困ってる人を助けるのは当たり前じゃない』

 当たり前のように言うその姿を見て、私は心からの感動を得た。

 ――世の中には、見た目だけじゃなくて心まで清らかな人がいるんだ。

『……ありがとう。なんてお礼を言えばいいのか……』

 女子に守られて情けない気持ちはあるものの、その時の私は運命の相手を見つけたと思った。

 ――彼女のためなら、何だってできる。

 その時の私は、唯一神を見つけた気持ちになっていた。

 それまで確固たる信念を持たなかった私は、初めて『彼女の言う事だけは何があっても聞こう』と自分に誓ったのだ。







 それからの三年間はとても楽しかった。

 優那は常に目立つ系の男子と付き合っていて、私は最初から自分が彼女の〝相手〟になる事はないと分かっていた。

 最初こそ『もしかしたら』と身の丈に合わない想いを抱いた。

 だがみんなの中心でにいる太陽のような優那を見るたびに、『彼女の側にはいられない』と痛感するようになっていった。

 だがその代わりに、私は彼女に必要とされる〝陰〟になろうとした。

 優那の帰りが遅くなった日は、彼女の家の最寄り駅まで駆けつけて送った。

『今ってこういうのが流行っているんだよね』と優那が流行のアクセサリーやブランド品をスマホで見せてくると、貯金を崩してでもプレゼントした。

『悪いからいいよ』と言われたが、彼女から得た恩を返せるなら何でもできる。

 彼女が助けてくれなかったら、私は高校三年間、ずっと弱者として虐められ続けていただろう。

 それを思えば、優那に感謝の証として贈り物をするぐらいどうって事はない。

 加えて、優那は私に褒美を与えなかったわけではなかった。

 家まで送った帰り、優那は『じゃあね』と私の頬にキスをしてくれる。

 それだけで全身を言い知れぬ高揚感が包み、この上ない幸せを得た。

 一度は、高ぶった想いのまま告白した事があった。

『北條さんが好きです! あなたのためなら何だってできる』

 愛の告白を受けた彼女はキョトンとしたあと、申し訳なさそうに笑って首を左右に振った。

『勘違いさせたならごめんね。私、好きな人がいるの。……瀧沢くんの頬にキスをしていたのは、……何もできないからせめてものお礼と思ってだけど……。誤解を与えるぐらいならやめる。……それに、こういう関係も良くないよね』

 優那が関係を断とうとしているのに気づいた私は、焦って否定した。

『ごめん! そんなつもりはなかったんだ! 今まで通りでいよう! 僕はこれ以上、何も望まない。ただ、君の側にいられたら、それでいいんだ』

『でも……』

 優那は申し訳なさそうに眉を寄せる。

『もう何も言わない! だから……、側に置いてほしい』

 私はクシャリと顔を歪め、頭を下げた。

 しばらく経ったあと、優那は溜め息をつき『参ったな』と笑う。

『……私なんかの側にいてもいいの? 瀧沢くんだって他に目を向ければ、彼女ができるんじゃない? ……ほら、同じ図書委員の後輩の……、長瀬(ながせ)涼子ちゃん? 彼女、瀧沢くんの事が好きそうじゃない』

 確かに長瀬は同じ図書委員で懇意にしているが、そういう関係ではない。

 彼女が私をどう思っているかは知らないが、私は長瀬を異性として見ていなかった。

『長瀬は関係ない。……君にそう思ってもらいたくない』

 苦しげに言うと、優那は『ごめん』と謝る。

『……じゃあ、今後もこういう関係を続けてもいいの? 私は瀧沢くんを好きにならないと思う。もう嫌だと思ったら、いつでも離れていいから』

『嫌じゃないし、都合のいい相手でも構わない。……北條さんの側にいさせてください』

 再度頭を下げると、彼女は溜め息混じりに苦笑いをした。

『……変な人だね』

 話がついたあと、私たちはまた歩き始める。

 北條家は立派な一軒家で、豪邸と言っていい。

 金持ちの家に生まれた彼女は愛されるべき存在と思っていたが、そう簡単な話でもないようだった。

『……私の家、医者の家系なの。父は開業医で、兄もそれを継ぐべく今はインターンをしている。母はお嬢様育ちで、今は病院の手伝いをしてる。……周りの人は私を〝恵まれた家に生まれた子供〟と言うけれど、……そうじゃない』

 優那はポツポツと語り始め、溜め息をつく。

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