有罪愛
――あぁ……。
残酷な現実を目の当たりにし、私は何とも言えない感覚を抱いた。
光り輝く優那は勝者だと思っていたのに、彼女はそれより大きな存在の前であえなく敗北した。
手の届かないところにいた女神は、撃ち落とされて地に落ちてきたのだ。
――彼女も、負けたのか。
――期待したのに裏切られ、欲したものを得られず、絶望したのか。
『くっ……』と声を漏らした私は、笑ったのだろうか?
私は己の感情を理解できないまま、今頃絶望しているだろう優那を想う。
――ここで優しく手を差し伸べたら、彼女は私の腕の中へ堕ちてきてくれるだろうか。
甘く苦い夢を抱きながら、私は優那になんと声をかけるべきか考え、新しい煙草に火を点けた。
しかし私が優那にメールを送る前に、彼女から連絡があった。
【お久しぶりです。都合のいい時だけ連絡をしてごめんなさい。会いたいので、来てくれませんか? 今住んでいる場所は……】
優那はメールで、三田にある十九階建てのマンションの住所を書いた。
三神は他の女と結婚する。
そのマンションは三神に買い与えられたものだろうが、恐らく『愛人としてここに住め』とでも言われたのだろうか。
久しぶりに女神から呼び出しを受けた私は、妙な高揚感を抱いて出かける支度をした。
時は四月下旬。
桜の開花宣言がされ、各箇所で次々に蕾が綻んでいる時期だ。
(会ったら何を話そう)
今の彼女の美しさは知っているが、優那からすれば高校卒業ぶりなので『綺麗になったね』と言うほうが自然だろうか。
そんな事を考えながら電車を乗り継ぎ移動していたが、本当の意味での〝最近〟の彼女を見ていないと気づいた。
優那が住んでいる三田のマンションの場所は分かっているし、そこも定期的にチェックしている。
だが三神は以前のようにマンションに立ち寄らず、当たり前だが婚約者ばかり相手にしている。
――あの豪華なマンションで、優那は一人で何を思っているだろう。
――悲嘆に暮れているだろうから、思いきり優しくしてあげなければ。
――今の優那には、頼る人が私しかいないのだから――。
そう思ってマンションを訪れたのだが――。
優那に教えられた場所を探ると鍵があった。
どうして彼女が迎えないのか疑問に思った私は、『もしかしたら合鍵をくれるのかもしれない』と浮かれた事を考えた。
しかしチャイムを押しても一向に家の中に人の気配がしないのを感じ不安を抱く。
(出かけるから、先に中に入っていろという意味だったんだろうか)
私は鍵を使い、『お邪魔します』と言って遠慮がちに家に上がった。
その時――、部屋の奥からは赤ん坊の泣き声が聞こえた。
――まさか。
一瞬にして浮かれていた気持ちはなくなり、あらゆる〝嫌な予感〟が何通りも脳裏を駆け巡る。
そして――。
『そんな……』
リビングに入って臭気がすると思ったら、グレーのスウェット姿の優那が、ドアノブにロープを掛けて首を吊っていた。
慌てて駆け寄って息があるか確かめようとしたが、冷たい首筋に触れた瞬間、手を引っ込める。
――嘘だ。
――優那が死ぬなんて……。
私は数歩離れたところで立ち尽くし、優那だったモノを見つめる。
彼女はいつも輝くような笑みを浮かべる、いい匂いのする美女だった。
部屋着姿を見た事もあったが、そのまま外出してもおかしくないぐらい、お洒落な服を身に纏っていた。
だから流行のスポーツメーカーとはいえ、優那が地味なグレーのスウェット上下を着ているのは意外だった。
髪も数日洗っていなかったのか、脂っぽく束になって顔にかかっている。
呆然と優那を見ている私の耳に、絶え間なく赤ん坊の泣き声が届く。
まるで夏場の蝉だ。容赦なく耳に飛び込み、自身の声を聞けと主張してくる。
私はその声に導かれるように、緩慢な足取りで別室に向かった。
残酷な現実を目の当たりにし、私は何とも言えない感覚を抱いた。
光り輝く優那は勝者だと思っていたのに、彼女はそれより大きな存在の前であえなく敗北した。
手の届かないところにいた女神は、撃ち落とされて地に落ちてきたのだ。
――彼女も、負けたのか。
――期待したのに裏切られ、欲したものを得られず、絶望したのか。
『くっ……』と声を漏らした私は、笑ったのだろうか?
私は己の感情を理解できないまま、今頃絶望しているだろう優那を想う。
――ここで優しく手を差し伸べたら、彼女は私の腕の中へ堕ちてきてくれるだろうか。
甘く苦い夢を抱きながら、私は優那になんと声をかけるべきか考え、新しい煙草に火を点けた。
しかし私が優那にメールを送る前に、彼女から連絡があった。
【お久しぶりです。都合のいい時だけ連絡をしてごめんなさい。会いたいので、来てくれませんか? 今住んでいる場所は……】
優那はメールで、三田にある十九階建てのマンションの住所を書いた。
三神は他の女と結婚する。
そのマンションは三神に買い与えられたものだろうが、恐らく『愛人としてここに住め』とでも言われたのだろうか。
久しぶりに女神から呼び出しを受けた私は、妙な高揚感を抱いて出かける支度をした。
時は四月下旬。
桜の開花宣言がされ、各箇所で次々に蕾が綻んでいる時期だ。
(会ったら何を話そう)
今の彼女の美しさは知っているが、優那からすれば高校卒業ぶりなので『綺麗になったね』と言うほうが自然だろうか。
そんな事を考えながら電車を乗り継ぎ移動していたが、本当の意味での〝最近〟の彼女を見ていないと気づいた。
優那が住んでいる三田のマンションの場所は分かっているし、そこも定期的にチェックしている。
だが三神は以前のようにマンションに立ち寄らず、当たり前だが婚約者ばかり相手にしている。
――あの豪華なマンションで、優那は一人で何を思っているだろう。
――悲嘆に暮れているだろうから、思いきり優しくしてあげなければ。
――今の優那には、頼る人が私しかいないのだから――。
そう思ってマンションを訪れたのだが――。
優那に教えられた場所を探ると鍵があった。
どうして彼女が迎えないのか疑問に思った私は、『もしかしたら合鍵をくれるのかもしれない』と浮かれた事を考えた。
しかしチャイムを押しても一向に家の中に人の気配がしないのを感じ不安を抱く。
(出かけるから、先に中に入っていろという意味だったんだろうか)
私は鍵を使い、『お邪魔します』と言って遠慮がちに家に上がった。
その時――、部屋の奥からは赤ん坊の泣き声が聞こえた。
――まさか。
一瞬にして浮かれていた気持ちはなくなり、あらゆる〝嫌な予感〟が何通りも脳裏を駆け巡る。
そして――。
『そんな……』
リビングに入って臭気がすると思ったら、グレーのスウェット姿の優那が、ドアノブにロープを掛けて首を吊っていた。
慌てて駆け寄って息があるか確かめようとしたが、冷たい首筋に触れた瞬間、手を引っ込める。
――嘘だ。
――優那が死ぬなんて……。
私は数歩離れたところで立ち尽くし、優那だったモノを見つめる。
彼女はいつも輝くような笑みを浮かべる、いい匂いのする美女だった。
部屋着姿を見た事もあったが、そのまま外出してもおかしくないぐらい、お洒落な服を身に纏っていた。
だから流行のスポーツメーカーとはいえ、優那が地味なグレーのスウェット上下を着ているのは意外だった。
髪も数日洗っていなかったのか、脂っぽく束になって顔にかかっている。
呆然と優那を見ている私の耳に、絶え間なく赤ん坊の泣き声が届く。
まるで夏場の蝉だ。容赦なく耳に飛び込み、自身の声を聞けと主張してくる。
私はその声に導かれるように、緩慢な足取りで別室に向かった。