有罪愛
「私も、勿体ないって思った。……死ぬならいつでもできる。……本当に絶望して『もういいや』ってなる前に、私は大好きな人と、お兄ちゃんと一緒に生きていきたい」
自分の希望を口にする事は、なんと勇気がいるのだろう。
抑圧されて生きてきた春佳にとって、何かを「したい」と意思表明するのは難しい事だった。
今までは周囲に流され、「みんながするなら自分も」というように生きてきた。
でも今だけは、ハッキリと自分の生き方を選択しなければならないと感じた。
「……生きたい。……好きな人と愛し合って、生きていきたいの」
感情が高ぶり、涙が頬を伝っていく。
それを薄明の光が照らし、彼女の白い面をうっすらとしたオレンジ色に染める。
「私、望まれて生まれた子じゃないと知ってショックだった。お父さんが私を愛していなかった事も悲しかった。……両親のどちらも、私を求めてくれなかった」
春佳は涙を流しつつも、必死に訴える。
「でもお兄ちゃんだけは、私を必要としてくれた。……だから私は、あなたを幸せにするために生きていきたい……っ」
涙声で言い切った春佳の言葉を聞き、冬夜も涙を流して頷いた。
「一緒に生きよう」
微笑んだ彼は春佳の頬に唇を寄せ、ちゅっと涙の雫を吸う。
そして妹の手を握り、語りかける。
「これからは俺がお前を愛していく。足りなかったすべての愛を俺が与える」
誓いを立てる彼の言葉を聞き、春佳はポロポロと新たな涙を流す。
「世界は俺たちを見捨てたかもしれない。……でも誰かに頼らなくても、俺たちなら幸せになれる。……なるんだ。……俺は、春佳を一生愛して、生まれてくる子供に愛情を注ぎ、幸せな家庭を築く」
冬夜の頬を伝った涙が顎先に至り、浴槽のお湯に滴った。
「結婚してくれ。……俺と、生きよう」
涙を流しながらプロポーズされ、春佳はクシャリと相好を崩し、――冬夜に抱きついた。
「生きる! ……っ樹と、生きていく……っ!」
春佳は勇気を出して彼の本当の名前を呼び、ギュッと腕に力を込めた。
壮大な朝焼けが広がるなか、空と海に抱かれた二人はまっさらな心をぶつけ合う。
すべてが嘘だったし、常人なら考えつかない歪んだ想いの上に自分たちの人生は成り立っていた。
だが〝普通〟と違っていても、両親にはそれぞれの愛の形があったし、自分たちもまた〝普通〟とは違う人生を歩み、〝普通〟ではない夫婦となる。
樹と春佳は世間的に問題のない関係だが、彼らの心の底には兄妹としての意識がしっかりと根付いている。
――けど、それでもいい。
――私たちには、私たちの愛がある。
――その過程にどれだけの罪が横たわっていたとしても、私たちの愛はこれでいい。
潮騒が轟くなか、春佳はしっかりと樹を抱き締める。
世界の片隅で、春佳は誰にも知られないプロポーズを受けた。
今まで兄妹だった二人が結婚すると知れば、周囲の人は驚くだろう。
祝福してくれない人もいるかもしれない。
――だから、私たちの関係はこれぐらいで丁度いい。
涙を流した二人は自然と唇を寄せ、二度目のキスをした。
水平線の上にはオレンジや茜、金色の光に満たされ、頭上にはラベンダー色の雲がその縁を黄金色に光らせていた。
魂が震えるほど美しい朝焼けを前に、何も纏わぬ二人は神聖なキスを交わす。
樹は春佳の肌を辿りながら言った。
「今までの瀧沢冬夜と瀧沢春佳は死んだ。これからの俺たちは誰にも遠慮せず、幸せになるために生きていく」
「うん……っ」
春佳は目を閉じ、樹の胸板に顔を寄せる。
目を開けると身をとろけさせた太陽が少しずつ昇り、一日の始まりを告げようとしている。
――私たちの人生は、これから始まる。
新しい人生への希望に、胸の奥が疼く。
桜の蕾が東風に吹かれて震えるように、二人は歓びに満ちた人生の春に胸を躍らせ、期待する。
――きっと幸せな人生が待っている。
泥の中、藻掻き足掻いて、這いつくばって進んだ果てに今がある。
そして泥に埋もれた地下茎は、スッと上に伸びて清らかな水の上で美しい蓮の花を咲かせるのだ。
抱き合った二人は、空と海が真っ青になるまで、温かな湯に浸かって壮大な景色を眺めていた。
**
自分の希望を口にする事は、なんと勇気がいるのだろう。
抑圧されて生きてきた春佳にとって、何かを「したい」と意思表明するのは難しい事だった。
今までは周囲に流され、「みんながするなら自分も」というように生きてきた。
でも今だけは、ハッキリと自分の生き方を選択しなければならないと感じた。
「……生きたい。……好きな人と愛し合って、生きていきたいの」
感情が高ぶり、涙が頬を伝っていく。
それを薄明の光が照らし、彼女の白い面をうっすらとしたオレンジ色に染める。
「私、望まれて生まれた子じゃないと知ってショックだった。お父さんが私を愛していなかった事も悲しかった。……両親のどちらも、私を求めてくれなかった」
春佳は涙を流しつつも、必死に訴える。
「でもお兄ちゃんだけは、私を必要としてくれた。……だから私は、あなたを幸せにするために生きていきたい……っ」
涙声で言い切った春佳の言葉を聞き、冬夜も涙を流して頷いた。
「一緒に生きよう」
微笑んだ彼は春佳の頬に唇を寄せ、ちゅっと涙の雫を吸う。
そして妹の手を握り、語りかける。
「これからは俺がお前を愛していく。足りなかったすべての愛を俺が与える」
誓いを立てる彼の言葉を聞き、春佳はポロポロと新たな涙を流す。
「世界は俺たちを見捨てたかもしれない。……でも誰かに頼らなくても、俺たちなら幸せになれる。……なるんだ。……俺は、春佳を一生愛して、生まれてくる子供に愛情を注ぎ、幸せな家庭を築く」
冬夜の頬を伝った涙が顎先に至り、浴槽のお湯に滴った。
「結婚してくれ。……俺と、生きよう」
涙を流しながらプロポーズされ、春佳はクシャリと相好を崩し、――冬夜に抱きついた。
「生きる! ……っ樹と、生きていく……っ!」
春佳は勇気を出して彼の本当の名前を呼び、ギュッと腕に力を込めた。
壮大な朝焼けが広がるなか、空と海に抱かれた二人はまっさらな心をぶつけ合う。
すべてが嘘だったし、常人なら考えつかない歪んだ想いの上に自分たちの人生は成り立っていた。
だが〝普通〟と違っていても、両親にはそれぞれの愛の形があったし、自分たちもまた〝普通〟とは違う人生を歩み、〝普通〟ではない夫婦となる。
樹と春佳は世間的に問題のない関係だが、彼らの心の底には兄妹としての意識がしっかりと根付いている。
――けど、それでもいい。
――私たちには、私たちの愛がある。
――その過程にどれだけの罪が横たわっていたとしても、私たちの愛はこれでいい。
潮騒が轟くなか、春佳はしっかりと樹を抱き締める。
世界の片隅で、春佳は誰にも知られないプロポーズを受けた。
今まで兄妹だった二人が結婚すると知れば、周囲の人は驚くだろう。
祝福してくれない人もいるかもしれない。
――だから、私たちの関係はこれぐらいで丁度いい。
涙を流した二人は自然と唇を寄せ、二度目のキスをした。
水平線の上にはオレンジや茜、金色の光に満たされ、頭上にはラベンダー色の雲がその縁を黄金色に光らせていた。
魂が震えるほど美しい朝焼けを前に、何も纏わぬ二人は神聖なキスを交わす。
樹は春佳の肌を辿りながら言った。
「今までの瀧沢冬夜と瀧沢春佳は死んだ。これからの俺たちは誰にも遠慮せず、幸せになるために生きていく」
「うん……っ」
春佳は目を閉じ、樹の胸板に顔を寄せる。
目を開けると身をとろけさせた太陽が少しずつ昇り、一日の始まりを告げようとしている。
――私たちの人生は、これから始まる。
新しい人生への希望に、胸の奥が疼く。
桜の蕾が東風に吹かれて震えるように、二人は歓びに満ちた人生の春に胸を躍らせ、期待する。
――きっと幸せな人生が待っている。
泥の中、藻掻き足掻いて、這いつくばって進んだ果てに今がある。
そして泥に埋もれた地下茎は、スッと上に伸びて清らかな水の上で美しい蓮の花を咲かせるのだ。
抱き合った二人は、空と海が真っ青になるまで、温かな湯に浸かって壮大な景色を眺めていた。
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