有罪愛
後日、北條家の人々と会うために指定されたのは、都内の高級ホテルの和食レストランだった。
北條夫妻は七十代前半で、一緒に来たのは優那の兄の隆也と妻の真美、その息子の彬と裕喜だ。
自己紹介して着席したあと、樹は遠慮がちに微笑んで言った。
「北條さん、このたびは誘いに応じてくださり、ありがとうございます」
樹が頭を下げると、祖母の侑子は泣きそうな顔で笑い、首を横に振る。
「そんな他人行儀な態度をとらないで。連絡をくれて本当にありがとう。こうやって見ると、本当に優那そっくりね」
侑子は懐かしむ表情で樹を見てから、「ジロジロ見てごめんなさいね」と申し訳なさそうに笑う。
「いきなり孫だと名乗り出たのに、不審がらず応じてくださり感謝しています」
樹が頭を下げると、琢磨は目尻を下げて微笑む。
「突然だったから確かに驚いたが、手紙に書いてある事には現実味があり、優那から連絡がこなくなった時期や亡くなった時期、様々な出来事に一致している。樹くん側の事情も鑑みて、嘘のつきようがないと判断した。なによりDNA鑑定のお墨付きだしね」
その時、侑子がタブレット端末を出した。
「樹くんの望み通り、優那の写真を纏めて持ってきたわ」
「ありがとうございます。拝見します」
樹は礼を言うとタブレット端末を受け取り、春佳と一緒に見始めた。
写真に写っているのは、顔立ちの整った美少女だ。
赤ん坊の時から可愛く、保育園、幼稚園と年を経るごとにその美貌が際立っていく。
「とても綺麗な方ですね」
春佳が言うと、夫妻は嬉しそうに笑う。
と、隆也が口を挟んだ。
「……でも僕は優那に申し訳なさを感じている。父はご存知の通り開業医で、僕もあとを継ぐために猛勉強してきた。両親は僕に期待し、優那にも女医になる未来を望んでいた。……でもあの子はそれほど勉強が好きではなく、次第に自分は両親に期待されていないと思い込むようになってしまった」
樹と春佳は、その後の優那がどんな行動をとったかを知っている。
隆也は溜め息をつき、続けた。
「思うように成績が伸びず、両親に応えられないと思った優那は、周囲の人に愛想を振りまき、好かれる事で承認欲求を得るようになった。お恥ずかしながら、優那は異性との付き合いが派手で、トラブルに発展する事もあった。……最終的に『最高の結婚相手を見つけた』と幸せそうに言っていたが、それも……」
三神の事だろうと察した二人は、視線を落とす。
樹は溜め息をついてから、ある種の覚悟を決めて口を開いた。
「三神丈司という人は、家庭を持って幸せに過ごしているようです」
「会いに行かなくていいの?」
侑子に聞かれ、樹は皮肉げに笑った。
「すでに会いましたが、胸糞悪い結果で終わりました。僕たちは三神家と関わらず、二人で生きていくと決めています。勿論、北條家の皆さんにご迷惑をおかけするつもりもありません。今日ご挨拶をしたあとは、それぞれの生活に戻りたいと思っています」
そう言うと、侑子が首を横に振った。
「それはいけないわ。今まで会えていなくても、あなたは私の孫なの。やっと会えたのに祖父母の責任を放棄させないでちょうだい」
必死に訴える侑子に、他の者も反対しなかった。
続いて琢磨が言う。
「確かにいきなり孫を名乗る人物から連絡があって驚いた。娘が生きていれば、誰かと結婚して子を産んでいただろう。娘が生きていても、そうでなくても、祖父母である私たちは孫を守るものだ。それに隆也たちも樹くんを受け入れると言っている」
伯父家族は樹を見つめてしっかり頷いた。
「むしろ、見つからなかったとはいえ無責任に放棄してすまない。これからはその埋め合わせをさせてくれ」
――これが本当の家族の温かさなんだ。
思い知ると同時に、自分のような存在には受け取る資格がないように思える。
けれど悪魔のような人がいる一方で、善人がいる事も分かっている。
樹は善人と思える人と関わらず生きてきたが、世の中の大体の人は「善くありたい」と思って生きていると信じたい。
少なくとも北條家の人たちに、自分を害する気持ちはないと思いたかった。
「……ありがとうございます」
樹が頭を下げた時、春佳おずおずと言った。
北條夫妻は七十代前半で、一緒に来たのは優那の兄の隆也と妻の真美、その息子の彬と裕喜だ。
自己紹介して着席したあと、樹は遠慮がちに微笑んで言った。
「北條さん、このたびは誘いに応じてくださり、ありがとうございます」
樹が頭を下げると、祖母の侑子は泣きそうな顔で笑い、首を横に振る。
「そんな他人行儀な態度をとらないで。連絡をくれて本当にありがとう。こうやって見ると、本当に優那そっくりね」
侑子は懐かしむ表情で樹を見てから、「ジロジロ見てごめんなさいね」と申し訳なさそうに笑う。
「いきなり孫だと名乗り出たのに、不審がらず応じてくださり感謝しています」
樹が頭を下げると、琢磨は目尻を下げて微笑む。
「突然だったから確かに驚いたが、手紙に書いてある事には現実味があり、優那から連絡がこなくなった時期や亡くなった時期、様々な出来事に一致している。樹くん側の事情も鑑みて、嘘のつきようがないと判断した。なによりDNA鑑定のお墨付きだしね」
その時、侑子がタブレット端末を出した。
「樹くんの望み通り、優那の写真を纏めて持ってきたわ」
「ありがとうございます。拝見します」
樹は礼を言うとタブレット端末を受け取り、春佳と一緒に見始めた。
写真に写っているのは、顔立ちの整った美少女だ。
赤ん坊の時から可愛く、保育園、幼稚園と年を経るごとにその美貌が際立っていく。
「とても綺麗な方ですね」
春佳が言うと、夫妻は嬉しそうに笑う。
と、隆也が口を挟んだ。
「……でも僕は優那に申し訳なさを感じている。父はご存知の通り開業医で、僕もあとを継ぐために猛勉強してきた。両親は僕に期待し、優那にも女医になる未来を望んでいた。……でもあの子はそれほど勉強が好きではなく、次第に自分は両親に期待されていないと思い込むようになってしまった」
樹と春佳は、その後の優那がどんな行動をとったかを知っている。
隆也は溜め息をつき、続けた。
「思うように成績が伸びず、両親に応えられないと思った優那は、周囲の人に愛想を振りまき、好かれる事で承認欲求を得るようになった。お恥ずかしながら、優那は異性との付き合いが派手で、トラブルに発展する事もあった。……最終的に『最高の結婚相手を見つけた』と幸せそうに言っていたが、それも……」
三神の事だろうと察した二人は、視線を落とす。
樹は溜め息をついてから、ある種の覚悟を決めて口を開いた。
「三神丈司という人は、家庭を持って幸せに過ごしているようです」
「会いに行かなくていいの?」
侑子に聞かれ、樹は皮肉げに笑った。
「すでに会いましたが、胸糞悪い結果で終わりました。僕たちは三神家と関わらず、二人で生きていくと決めています。勿論、北條家の皆さんにご迷惑をおかけするつもりもありません。今日ご挨拶をしたあとは、それぞれの生活に戻りたいと思っています」
そう言うと、侑子が首を横に振った。
「それはいけないわ。今まで会えていなくても、あなたは私の孫なの。やっと会えたのに祖父母の責任を放棄させないでちょうだい」
必死に訴える侑子に、他の者も反対しなかった。
続いて琢磨が言う。
「確かにいきなり孫を名乗る人物から連絡があって驚いた。娘が生きていれば、誰かと結婚して子を産んでいただろう。娘が生きていても、そうでなくても、祖父母である私たちは孫を守るものだ。それに隆也たちも樹くんを受け入れると言っている」
伯父家族は樹を見つめてしっかり頷いた。
「むしろ、見つからなかったとはいえ無責任に放棄してすまない。これからはその埋め合わせをさせてくれ」
――これが本当の家族の温かさなんだ。
思い知ると同時に、自分のような存在には受け取る資格がないように思える。
けれど悪魔のような人がいる一方で、善人がいる事も分かっている。
樹は善人と思える人と関わらず生きてきたが、世の中の大体の人は「善くありたい」と思って生きていると信じたい。
少なくとも北條家の人たちに、自分を害する気持ちはないと思いたかった。
「……ありがとうございます」
樹が頭を下げた時、春佳おずおずと言った。