有罪愛
 翌朝遅めに起きたあと、昨晩の兄の様子がおかしかったのは夢だったろうか、と考える。

 ダイニングテーブルについている春佳の前にはパンが並び、コーンスープ、少し固めに焼いた目玉焼きにカリカリベーコン、サラダが並んでいた。

 サラダはお洒落にもナッツとクルトンが載せられ、シーザーサラダ風になっている。

 兄妹で向かい合って食事をしつつ、春佳はからかいまじりに言う。

「料理上手だね。お兄ちゃん、モテるでしょ」

「そんな事ない」

「料理男子だし、格好いいし、入れ食いなんじゃない?」

「下品な事を言うんじゃない」

「でも、こんなにいい条件が揃ってる二十六歳男子なのに、彼女がいないなんて変でしょ。それとも、私の知らないところで誰かと付き合ってる?」

 なおも食い下がるが、兄の態度は変わらない。

「誰もいない。今は大変な時だし、当分恋人を作るつもりはない」

「けど、お父さんが死ぬ前もずっといなかったじゃない」

 冬夜に似合いの女性が現れたら、ブラコン妹として葛藤するだろうが、本当にいい人なら祝福したい。

 そしてこじらせ妹から卒業し、自分もいい相手を見つけて幸せになりたいと願っていた。

 なので冬夜に彼女がいないのか、知りたかったのだが――。

「春佳」

 窘めるように少し強めに名前を呼ばれ、彼女はハッとして俯く。

「紹介できる人ができたらちゃんと言うから、あまり困らせるな」

 呆れ顔で言われ、春佳はさすがにしつこくしすぎたと反省する。

「……ごめん」

 謝ったあと、気まずいながらも朝食を終え、二人でキッチンに立って洗い物をしていた時だった。

 春佳が食器をすすぎ、冬夜が食洗機に入れる役を担っていたが、なぜか指先がよく触れ合う。

(濡れるから触らないようにすればいいのに)

 そう思って洗い物を終え、タオルで手を拭いていた時、背後に冬夜が立ち、キッチン台に両手をついた。

(ん……?)

 振り向くと兄の両腕に閉じ込められる体勢になっていて、ギョッとする。

「なに」

 困惑していると、冬夜は妹を腕の中に囲ったままジッと見つめてくる。

「春佳、彼氏は?」

 今度は逆に聞き返され、彼女は溜め息をつく。

「……いないの知ってるでしょ」

 それも、半分は冬夜が原因だ。

 完璧と言える兄がいるので、同じ歳の男の子は子供っぽく見え、欠点もすぐ目についてしまう。

 だから十九歳になる今も、春佳には好きな人すらいない。

 冬夜は妹の返事を聞き、微かに目を細める。

「彼氏ができたらこういうふうに密着するけど、お前大丈夫なのか?」

 冬夜はからかうように言い、わざとゆっくりと春佳の頭を撫で、頬から顎にかけて指先を滑らせた。
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