好きになった人は、みんなのアイドルで

46話 カヌレより

ーー悠太郎サイド

今日はカフェにつむぎちゃんいるかな……
カフェに向かって歩いていると、見覚えのある後ろ姿。

「つむぎちゃん!」思わず走っていた。
「つむぎちゃん見えたから」
追いつくとつむぎちゃんは少し驚いた顔をした。

「なんか今日から駅でパンのイベントやってるんでしょ?」
今日は話すこと考えてきてた。絶対つむぎちゃん興味あるでしょ。
「そうなの!これから行こうと思ってて!」
「……それ、一緒に行っていい?俺も気になるお店あるんだよね」
気になるお店があったのはほんとだけど、一緒に行くつもりなんて無かった。
俺の口、グッジョブ。

「う、うん、いいよ。何のお店気になってるの?」
「俺はパンは詳しくないんだけどねー、なんかカヌレが有名なとこが来てるらしくて」
「そっか、お菓子作りするんだもんね」

(なんで知ってんの)
「……え、俺言ったっけ」
「ごめん!オーディション番組のプロフィール見て……」
「あーあれか、そっか、ちょっと恥ずかしいな」
つむぎちゃん、俺のこと調べたんだ。
口元が緩むのを悟られないように歩く。

イベント会場に着くと、入口がかなり混雑していた。
目の前でつむぎちゃんがよろける。
「大丈夫?」 咄嗟に腕を取ってしまった。
細い。軽い。柔らかい。
「だ、だいじょうぶ……」
守りたい、なんて陳腐な言葉が浮かんだ。

「やば、めっちゃパンある。……あ、当たり前か」
手の感触から意識を逸らすように話すと、
「そだね」ってつむぎちゃんが笑っていた。

既に売り切れの店もいくつかあって、
つむぎちゃんが狙っていた店もその中にあったらしい。 ガッカリする顔がかわいい。
こんな色んな表情のつむぎちゃんを見れるなんて、誘って良かった。

列に並ぶと店員さんに試食のパンを渡される。
「限定のデニッシュです。彼氏さんもどうぞ」
(彼氏さん) 一瞬何を言われたか分からなかった。
……彼氏さん?待って、カップルに見えたってこと?
……そりゃ見えるか。
え、ごめんつむぎちゃん、俺そこまで考えてなかった。

「……カップルに見えるよね、ごめん」
「なんで謝るの?……う、うれしいけど」
(嬉しい?……俺とカップルに見えて、嬉しい?)
「……そっか」目を合わせられない。多分顔も赤い。

一通りお店を回って一息つく。
「ちょっと疲れたね、座る?」
イートインスペースを指さすと、 「うん、座る」とつむぎちゃん。
「飲み物買ってくるよ。何がいい?」
「あ、アイスカフェラテ」
(一緒じゃん)ちょっと嬉しい。
「おっけー、買ってくるからつむぎちゃん座ってて」
「ありがと」

アイスカフェラテを持って席に向かうと、
つむぎちゃんがテーブルに買ったパンを並べてる。
パンを見て楽しそうに笑って……表情がころころ変わる。かわいい。

「お待たせ」
「ね、ちょっと食べてもいい?焼きたて食べたい」
ずっと眺めてたもんね。食べたかったんだ。
「俺の買ったカヌレも食べよ」
つむぎちゃんと食べたくて、2個ずつ買った。

カヌレの味なんかより、つむぎちゃんの笑顔の方がずっと印象に残った。
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