クールな機長は契約恋人の副操縦士を離さない
 翌日、涼介さんのバーで見つけた兄が遺したマイクロSDカードと共に札幌から帰ってくると、マンションに瑞希の姿はなかった。
 瑞希の部屋には彼女の荷物は何一つ残っておらず、突然のことに動揺した。
 リビングのテーブルには【お世話になりました】という書置きがあっただけだ。
 
 瑞希と最後に会った昨日の朝のことを必死で思い出すと、彼女の表情はどこか沈んでいた。
 何か俺に不満があって出て行ったのだろうか。そう思うと居たたまれなくなり、スマホを取り出して、瑞希に何度も電話するが全くつながらない。俺が送ったメッセージにも既読はつかない。
 確か今日はもう羽田に戻っているはずで、スマホを見られない状況ではないはずだ。
 まさか空き巣に入られたばかりのアパートに帰ったのだろうか。防犯設備の弱い、あんな部屋に瑞希がいると思うと、心配で頭がおかしくなりそうだ。
 俺は車のキーを持って、帰って来たばかりの部屋を出た。
 
 品川のマンションから車を飛ばして三十分後、俺は瑞希が住む六郷土手のアパートに到着した。
 狭い路地の脇に車を停め、エンジンを切る。
 見上げたアパートの二階部分は瑞希の部屋だけが暗いままだった。
「頼むからいてくれよ」
 祈るような気持ちで階段を駆け上がり、薄いドアの前に立つ。インターホンを何度も鳴らし、ドアを叩いた。しかし、返ってくるのは冷たい静寂だけだ。
 鍵はかかっていた。やはりここにはいないのか。冷静に考えれば、あんなに怯えていた部屋に一人で戻るわけがない。だとしたら一体どこに?

 車に戻り、行き場のない怒りをぶつけるようにハンドルを強く叩きつけた。
「クソッ! なんで急にいなくなるんだ」
 好きな女と暮らすのが苦しいなどと、贅沢なことを思った罰が当たったのか。
 思えばこの一週間、瑞希の気配を近くで感じて幸せだった。
 同じベッドで寝起きをして、瑞希の手料理を食べて……。
「どうか無事でいてくれ」
 額にハンドルを押しあてて、そう呟いた時、ポケットの中のスマホがブルブルと震える。画面に表示された名前を見て、勢いよく通話ボタンをスライドさせた。
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