クールな機長は契約恋人の副操縦士を離さない
「は、隼人さん!……ここはコックピットですよ!」
 驚いて声を上げる私を、逞しい腕がすっぽりと包み、隼人さんは私の肩に顎を乗せた。制服から香る隼人さんの甘いホワイトムスクの香りが鼻腔をくすぐり、心臓を跳ねさせた。
「気にするな。電源は全て落ちているから、誰にも俺たちの声は聞こえないし、記録にも残らない」
「で、でも、フロントガラスから見えますから!」
 ボーディングブリッジの窓ガラスから地上スタッフがこちらを見ている気がして落ち着かない。
「じゃあ、見せつけてやるか」
 不意に隼人さんが意地悪く私の頬に口づける。
「もうっ、隼人さん!」
 頬を右手で抑え、睨むと、隼人さんが楽しそうに笑う。そして、フッと真面目な顔をした。それから私を抱えて立ち上がると、私をキャプテンシートに座らせる。
「隼人さん?」
 首を傾げると、隼人さんが私の前で片膝をつく。
「俺は、これからは地上に降りて、社長としてスカイクレスト航空の舵取りをするが、瑞希、俺の人生のフライトプランにはお前という最愛の副操縦士が必要だ。俺の妻になってくれ」
 そう言うと、隼人さんは制服のポケットから光輝く大粒のダイヤモンドが付いた指輪を取り出した。
「え……」
 突然のことに言葉を失う。これはプロポーズ!
「隼人さん、私でいいんですか? だって私たち恋人になってまだ三ヶ月だし……」
 社長になる隼人さんの隣に私が相応しいかわからない。
「三ヶ月じゃない。俺は五年もお前を想っていたんだ。これ以上待てない」
 その言葉に胸の奥が熱く震えた。私も同じだった。フロリダの訓練所で隼人さんに助けられてから、ずっと想って来た。
「……はい。私も隼人さんと一緒にいたいです」
 隼人さんが嬉しそうな笑みを浮かべ、私の左手の薬指に指輪をはめる。サイズはピッタリだった。
「瑞希、俺たちはずっと一緒だ」
 隼人さんがぎゅっと私を抱きしめる。
「はい」
 嬉しくて、瞼の奥が熱くなる。
 フロントガラスの外には世界一美しい夕焼けがあった。
 きっと私は、一生この景色と、幸福でいっぱいの気持ちを忘れない。
 隼人さんと静かに唇を重ねながら強くそう思った。

 終
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