クールな機長は契約恋人の副操縦士を離さない
 羽田空港第一ターミナルにあるスカイクレスト航空のオペレーションセンターに出社すると、その中にある女子更衣室で副操縦士の制服に着替える。
 袖口に三本の金の線が入る濃紺のジャケットと、スラックスを身に付け、最後に鏡の前でネクタイを整える。
 その瞬間、私の意識は南雲(なぐも)瑞希という個人から、プロのパイロットに切り替わる。多くのお客様を乗せて空を飛ぶ仕事だと思うと、毎回、その責任に身が引き締まる思いだ。
 どうか今日も安全運航ができますようにと祈りながら、更衣室を出て、業務エリアに向かった。

 スカイクレスト航空は創業50年の国内大手の航空会社で従業員は全部で8500名になる。世界の主要都市に航路を持ち、現在80機の飛行機を所有している。
 私が入社したのは大学卒業後で、幸運なことに数百倍の倍率を勝ち抜いて自社養成パイロットに選ばれ、厳しい訓練を受けて今に至る。パイロットになって三年目だ。

 アルコール検査と体調申告、ライセンス確認などのショーアップ(出勤報告)を済ませると、宿泊用のステイバッグを所定の場所に置き、フライトに必要な物が詰まったフライトバッグだけを手に取って、隣のブリーフィングルームに足を踏み入れる。そこは、ディスパッチャー(運航管理者)が作成した飛行計画のチェックをはじめ、離着陸地の気象分析、航空情報の確認、機体の整備状況の把握など、安全運航に不可欠な情報を精査するための場所だ。

 室内には立ったまま作業ができる白いハイカウンターが等間隔に並び、濃紺の制服に身を包んだパイロットたちがコーヒー片手に情報収集に励んでいた。私も割り当てられた端末の前に立ち、本日のフライトプランに目を通し始めた。

 今日の午前中は羽田―福岡の往復、午後は羽田―新千歳で、ステイ(宿泊)をして、明日の午前中に羽田に戻ってくるスケジュールだ。そして、その後は二日間のオフになる。オフになったら、この四日間のフライトの振り返りをして、勉強をしなくちゃ。そう思った時、特徴的なハスキーボイスが背中にかかった。

「南雲、ちゃんと食ってるか」
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