クールな機長は契約恋人の副操縦士を離さない
 ふり返ると、そこには総飛行時間二万時間を超えるベテランパイロット、今岡(いまおか)キャプテンがいた。日に焼けた肌に、目尻に刻まれた皺が印象的だ。威圧感のある太眉のせいで、初対面の人間はキャプテンをその筋の方のように誤解するが、そんな事はなく、とても気さくで面倒見のいい方だ。

 737チームにいた頃は、私のことを娘のように可愛がってくれて、ステイ先ではいつも食事を奢ってもらった。

「食べてますよ」

 笑みを浮かべながら答えると、今岡キャプテンがじっと私を見る。

「その割には相変わらず鉛筆みたいだな。もう少し肉付けろ」

 身長170㎝で、細身の私は今岡キャプテンの言う通り鉛筆みたいな体型をしている。だからパイロットの制服を来たまま女子トイレに行くとよく男性と間違えられる。

「今岡キャプテン、それセクハラになりますよ」

 今岡キャプテンに釘を刺したのは、地上から私たちパイロットを支えるディスパッチャーの水沢(みずさわ)さんだ。
 ブリーフィングルームの奥はディスパッチャーのオフィスになっていて、いつでも必要な情報をパイロットに伝えられるように待機してくれている。

「おおっと、堅物の水沢くんがいたんだった。そんなに真面目だったら彼女出来ないよ」

 水沢さんがメタルフレームのメガネのブリッジを抑えながら今岡キャプテンを睨んだ。

「余計なお世話です」
「そうだ水沢くん、南雲はどう? 見た目は鉛筆みたいで色気はないけど、いい子だよ」

 いきなり今岡キャプテンに勧められて、脇の下に冷や汗をかいた。
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