クールな機長は契約恋人の副操縦士を離さない
 目を開けると、隼人さんが綾音の細い手首を掴んで、止めていた。

「離して! 隼人、あなた正気なの? こんな色気もない男みたいなのが恋人なんて、どうかしているわ」
 男みたいと言われて、ズキリと胸が痛くなる。
 ロングの髪を巻き、きちんとメイクしている綾音に比べて、薄化粧でショートカットの私は確かに男みたいかもしれない。

「彼女は俺の恋人だ。これ以上、瑞希を侮辱するのは許せない」
 隼人さんは綾音の手首を突き放すように離し、私の手を握った。先程まで操縦桿を握っていた大きな掌に包まれて、ドキリと胸が高鳴った。

「瑞希、行こう」
 隼人さんが私の手を握ったまま歩き出す。周囲からの視線を感じて、恥ずかしくて顔を上げられない。
 CAや佐藤キャプテンだけではなく、地上係員も私たちを見ていた。

「待ちなさいよ! 私は認めないから!」
 背後から綾音の叫び声がしたが、隼人さんは一度も振り返らなかった。そして私の手もオフィスにつくまで離さないから、通りすがる人たちが驚きの視線を向けてくる。隼人さんの恋人として私は認識されているに違いない。そういう仕事だから当然だが、周囲の視線が痛すぎる。

 佐藤キャプテンもデブリーフィングが終わると、ニヤッとした表情で「お幸せに」なんて言って去って行った。私は苦笑いを浮かべるしかない。

「瑞希、家まで送る」
 オフィスを出ようとしたら、当然のように隼人さんがついて来た。
「いえ、電車で帰りますから」
「俺に送られるのも恋人の仕事だ」
 確かに恋人としての仕事だけれど、今日はもう勘弁して欲しい。ロングフライトの後に周囲の視線に晒されて、私の精神力は限界を越えた。
「電車で帰ります!」
 苛立ちが声になって現れた。
 隼人さんの眉が僅かに上がる。
「……わかった。契約のことで明日連絡する」
 強引なことを言われるかと思ったが、あっさりと私の要求を呑んだ。
「気をつけて帰れよ」
 別れ際の言葉が本当に私を心配していそうで、少しだけ一緒に帰れば良かったと思った。
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