極道シングルファザーの甘く危険な独占愛
 その日羽衣子は兄に連絡を取ることはなかった。

 突然の手紙に気持ちが追いつかず、ただ封筒を机の上に置いたまま何度も視線を向けては逸らすことを繰り返すだけだった。

 そして翌日、外へ出る気にもなれない羽衣子は部屋で一人、手紙の内容について考え続けていた。

(……会うべき、だよね)

 謝罪と返金の申し出。

 それだけ見れば、きちんと向き合おうとしているようにも思える。

 けれど、あの時と同じようにまた突然いなくなるのではないか――そんな不安も拭えなかった。

「……どうしよう……」

 小さく呟いたその時、ベッドの上に置いていたスマートフォンが鳴り響く。

「……え?」

 手に取り、誰からの着信かを確認する為に画面を見ると、その名前に少し驚きながらも羽衣子は通話ボタンを押した。

「もしもし」
『……突然すみません、京極です』
「いえ……どうかされましたか?」
『実は昨日、吾妻先生がうちにポーチを忘れていまして、それを届けに伺おうかと』
「え? 本当ですか!?」

 言われた羽衣子が急いで鞄を見てみると、確かにいつも入れている小さめのポーチが見当たらない。

「すみません。でも、わざわざ届けてもらうのは申し訳ないので大丈夫です。次に保育園でお会いする時に――」
『いえ、実はもう近くまで来ていまして』
「え?」

 思わぬ言葉に聞き返した羽衣子。

『外、見ていただけますか』

 言われるままに窓へ近付きカーテンを少し開けてみると、

「……あ」

 アパートの前には見覚えのある車が停まっていた。

「す、すぐ行きます!」

 慌てて通話を切り、羽衣子は急いで部屋を飛び出した。

 階段を駆け下りていくと昴が車から降りてきた。

「すみません、わざわざ……!」

 息を切らしながら駆け寄る羽衣子に、昴は小さく首を振った。

「いえ。むしろ、勝手に来てしまってすみません」
「そんなことないです! わざわざありがとうございます……」

 差し出されたポーチを受け取りながら頭を下げた羽衣子は、

「希海くんは大丈夫ですか?」

 気になっていた希海の様子を尋ねると、昴は僅かに表情を緩めた。

「ええ。熱も少し下がってきて、昼には食欲も戻ってきました」
「本当ですか……よかった……」

 それを聞いてホッとしたように胸を撫で下ろす羽衣子。

 その安堵した様子を見つめながら、昴はふと視線を細めた。

「……吾妻先生」
「はい?」
「何か、ありましたか?」

 唐突な問いに、羽衣子は一瞬言葉を失う。
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