極道シングルファザーの甘く危険な独占愛
 ポストの前で立ち尽くしたまま、羽衣子は暫く動けなかった。

「……お兄ちゃん……」

 思わず漏れた声は驚きと戸惑いに満ちている。

 羽衣子には五つ年上の兄がいる。

 両親は羽衣子が五歳の頃に亡くなり、父方の叔父の元に引き取られた。

 慣れない環境の中でも兄はずっと羽衣子の傍で守ってくれる存在だった。

 けれど、高校を卒業して就職を機に叔父の家を出た兄は変わってしまう。

 一年も経たないうちに会社を辞めて戻って来たものの何をするでも無く一日中家に居て仕事を探す素振りすら見せない。

 そんな兄に対して叔父は厳しく叱責した。

 それを鬱陶しく感じたのかそれから数日後、兄は黙って叔父宅を出て以降、音信不通になった。

 心配はしていたものの、連絡を取る術が無かった羽衣子は高校を卒業し、都内の短大へ進学する為に叔父宅を出て学生寮で一人暮らしを始めた。

 すると、どこから聞きつけて来たのか突然訪ねてきた兄は、どこかやつれた様子だった。

「悪いんだけどさ……ちょっと金、貸してくれないか」

 困っているのは明らかで、聞きたいことは山ほどあるものの、ひとまず叔父から、「何かあった時のために」と生活費とは別に渡されていた十万円を差し出した。

「返すのは何時でもいいけど、連絡だけは取れるようにして? それと、ちゃんとご飯食べて」

 そう言った羽衣子に兄は少しだけ目を伏せて、

「……分かった。ありがとな」

 それだけ言うと自身の電話番号を言い残して去っていった。

 それから暫くは電話を掛ければ短いものの話は出来ていたので羽衣子も安堵していたのだけど、ある日を境に再び連絡は途絶え、どこで何をしているのかも分からないまま時間だけが過ぎていった。

「……何で、今更……」

 あの頃も思っていたが、今回にしても何故この住所が分かったのか。

 正直疑問は尽きない。

 羽衣子は急いで階段を駆け上がって部屋へと戻ると封筒を開き、中に入っていた便箋を取り出してゆっくり目を通す。

「…………」

 そこに書かれていたのは、再び音信不通になってしまったことへの謝罪と、

「……あの時のお金を返したい、から……一度、会いたい……?」

 借したままになっていたお金のことだった。

 ずっと連絡も無かった兄からの突然の便りは嬉しいはずなのに、どこか不安も大きかった。

「……どう、しよう……」

 だから、会いたいと言われても迷ってしまう自分がいて、すぐに書かれていた電話番号へ連絡することが出来ないでいた。
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