極道シングルファザーの甘く危険な独占愛
 昴は何故こんなことになっているのかと頭を抱えたくなった。

 ただ安全確保の為にホテルへ避難し、一夜を過ごすだけのはずだった。

 それなのにまさか、酔った羽衣子に抱きつかれ、呼び方や話し方でこんなやり取りをすることになるなんてと。

「…………」

 羽衣子の問い掛けにどう答えるべきか迷う昴だったが、目の前の羽衣子は明らかに酔っていて、恐らく明日の朝には今のことを覚えていないだろう。

 そう思ったからこそ昴は、「……好きに呼んでくれて構わない」と答えた。

 すると羽衣子の顔がぱっと明るくなる。

「ほんとーですか?」
「ああ」

 その返事を聞いた羽衣子は嬉しそうにニコニコと笑みを浮かべ、そして、

「昴さん!」

 名前を口にした。

「……っ」

 その瞬間、昴の胸の奥を何とも言えない感覚が掠めた。

 それはふい打ちのような衝撃。

 嬉しいとも違い、恥ずかしいとも違う。

 何という言葉で表せばいいのか分からないが、これまで味わったことのない感覚だったのだ。

(何だ、これ……)

 昴は今感じた感覚を理解出来ずに戸惑う。

 そんな中、ふと視線が下がり、抱きついたままの羽衣子に目が止まると、着ているバスローブは少し緩んでいて、胸元が危うくはだけそうになっていることに気づく。

「……っ!」

 昴は慌てて視線を逸らし、とにかく離れなければと思った、その時だった。

 突然身体へ重みが掛かり、恐る恐る視線を戻すと、

「すぅ……」

 羽衣子が寄り掛かりながら寝息を立てて眠ってしまっていた。

 どうやら言いたいことを全部言って満足したらしい。

 満足気な表情で眠っている。

 そんな羽衣子を前に数秒程固まった昴は、「……はぁ」と大きく息を吐いた。

「……何なんだよ、一体……」

 そして、ポツリと零れたその言葉は自分でも驚く程弱々しかった。

 昴は眠ってしまった羽衣子の身体をそっと抱き上げると、起こさないようそっとベッドへ運ぶ。

 そして慎重に寝かせると、肩まで布団を掛けた。

 こうして羽衣子の寝顔を見るのは初めてではなかった。

 これまでも何度かあった。

 希海を寝かしつけている最中に眠ってしまい、そのたびに起こさないよう布団を掛けた。

 だから本来なら特別なことではない――はずなのに、二人きりという今のこの状況が昴の心を掻き乱す。

 安心しきった無邪気で無防備な寝顔を見つめるたび、先程の言葉が頭を過る。

 名前で呼んでほしい、敬語を遣わず話してほしい。

 そして嬉しそうに笑った顔。

 思い出せば出す程に胸の奥が騒がしく落ち着かない昴は羽衣子から離れてソファーへ身体を沈めると、袋の脇に置いていた煙草とライターを手に取った。
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