極道シングルファザーの甘く危険な独占愛
「……京極さん……」

 羽衣子が小さく呟くように呼ぶと、昴はわずかに視線を向けた。

「それと、昨夜はこんなことも言っていたな」
「え?」
「自分も名前で呼びたい、ってな」
「……え?」

 突然の言葉に羽衣子の思考がぴたりと止まる。

(わ、私……そんなことまで言ったの?)

 酔っていた昨夜の自分が何を口走ったのか全くと言っていい程覚えておらず、思い返そうとしても断片すら浮かばず、代わりに顔だけがみるみる熱くなっていく。

「羽衣子も、これからは俺のことを名前で呼べ」
「で、でも……」
「俺だけ名前で呼ぶのは不公平だろ?」

 淡々と告げられた羽衣子は返す言葉を失う。

「昨日は呼んでいたんだ。もう一度呼んでみろ」
「……っ」

 昨夜名前を呼んだのは酒に酔った自分で、今の自分には心の準備などまるで出来ていない。

 けれど、ここで逃げてしまえばきっとこの先も呼べなくなる。

 そんな気がした羽衣子は膝の上でぎゅっと手を握り締めると、意を決して口を開く。

「……昴……さん」

 恥ずかしさで消えてしまいそうなくらい小さな声ではあったけれど、それでも確かに名前を呼ぶと昴はほんの少しだけ嬉しそうに目を細めた。

「それでいい、それはそうと、そろそろ準備して出るぞ。乙哉が迎えに来てくれるようだからな」
「は、はい!」

 こうして二人は名前で呼び合うようになった。

 傍から見れば些細な変化かもしれないけれど、これは二人の間にあった距離を縮めたとても大きな出来事で、昨日までより明らかに近くなった関係を胸に、準備を終えた二人は部屋を後にした。
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