極道シングルファザーの甘く危険な独占愛
 園児は大人たちの緊張など知る由もなく、いつも通り無邪気に園庭を走り回っていた。

「せんせ、みてー!」

 元気な声と共に、希海が羽衣子の元へ駆け寄ってくる。

「わぁー、すごいね!」

 笑顔で応じながらも羽衣子の意識の一部は常に周囲へと向けられていた。

 暫くは何事もなく時間が過ぎていき、そろそろ室内へ戻る時間になって保育士たちが園児に声を掛け始めた。

 羽衣子も一人の園児を連れて中へ入り、再び園庭へ視線を向けたその時だった。

「……希海くん?」

 遊具の奥の柵の付近に立つ希海の姿が目に入る。

 外へ身体を向け、じっと何かを見つめている様子に羽衣子は小さく首を傾げた。

(外に犬でもいるのかな……)

 この辺りでは、よく散歩中の犬が通るので、それに興味を引かれたのだろうと思いながら羽衣子は希海の元へ歩み寄った。

 けれど、近づいて見えた柵の向こう側にいたのは犬ではなく、三、四十代程の見知らぬ男。

 その男は羽衣子が近づいてきていることに気づいていないのか、ふいに手を上げると希海に向かってゆっくりと手招きをした。

 まるで「おいで」とでも言うように。

 希海は首を傾げながらも、ふらりと一歩踏み出して柵の方へと近づこうとしていた。

「希海くん!」

 羽衣子の声が鋭く響くと、はっとしたように希海が振り返ったその瞬間、男は慌てたように身を翻してそのまま走り去っていった。

「……っ」

 羽衣子はすぐに駆け寄り、希海を強く抱き締める。

「希海くん、今の知っている人?」

 出来るだけ落ち着いた声で問いかけると、希海は少し戸惑いながら首を横に振った。

「……しらないよ……」

 羽衣子の不安が伝わったのか、希海もまた眉を下げて不安そうな表情を浮かべている。

「そっか、教えてくれてありがとう。中に入ろうね」

 すぐに笑顔を作り、安心させるように声を掛けた羽衣子は希海の手を引くと急いで室内へ戻った。

 そして、そのまま他の保育士たちの元へ向かう。

「今……外に知らない男の人がいて、希海くんに手招きを……」

 息を整えながら状況を伝えると場の空気が一気に張り詰め、保育士たちの顔は青ざめていた。
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