極道シングルファザーの甘く危険な独占愛
「何があった!?」

 外で電話をしていた乙哉が急いで中へ戻ると、組員や病院関係者が慌てふためいている。

「広瀬さん、二階の窓ガラスが何者かに割られたみたいなんですが、姿が見えなくて」
「威嚇でもしてんのか? ん? それより羽衣子ちゃんは?」
「あ、少し前にトイレへ入ったきり……」
「一人で行かせたのか?」
「はい、その、女性のトイレへ付き添うのは……」
「中まで入れとは言ってねぇよ。すぐ側まで付いてかなかったのかって聞いてんの!」
「はい、あの、見える位置で出入り口の確認はしていましたので……」
「それで彼女は?」
「まだ中に居るかと」
「確認もしてねぇのかよ!?ったく、監視くらいきちんとやってくれよ……」

 当たり前のことをやっていない組員たちに呆れ溜め息を吐きながらトイレの前へやってくる乙哉。

「羽衣子ちゃん、大丈夫? ちょっと入るよ」

 ノックをして声を掛けながら扉を開けると、明らかに人の気配が感じられない。

「羽衣子ちゃん!?」

 個室のドアをノックして開いてみるも、そこはもぬけの殻で、

「ッチ! マジかよ……」

 舌打ちをした乙哉は急いでトイレから出て周りの組員たちに指示をする。

「羽衣子ちゃんが居なくなった! 外見張ってた奴らもすぐ集めて探せ!」

 指示を出しながらも、乙哉はどこか腑に落ちないでいた。

(トイレの窓は閉まってたし、そもそも出入り出来る大きさじゃねぇ……ってことは彼女自ら外へ出たのか?)

 乙哉は病院の入り口の前で電話をしていたので、可能性があるとすればトイレから一直線で行ける裏口だけ。

 けれど、裏口も外から見張りを立たせていて、誰かが出入りすれば気がついたはずなのだ。

 嫌な予感が頭に過ぎった乙哉が裏口のドアを開けるも、そこには誰もいない。

 残されていたのは羽衣子が持っていたスマートフォンのみで、攫う際偶然落ちたのか、あるいはわざと落としていったのか。

 スマートフォンを拾い上げ、見張りで立たせていた組員の姿を探すも見当たらない。

「……アイツ、もしかして相手に寝返ったのか?」

 見張りで立たせていた男は数ヶ月前に入った二十代前半の男で、常に真剣に取り組んでいた有望株ではあったものの、姿が見えないことや裏口から羽衣子が攫われたことを考えると、恐らく男は高遠の仲間か何らかの理由で仲間にならざるを得ない状況だったことを知る。

「クソっ! ってことは、アイツの兄貴も……」

 そして、その男には二つ年上の兄がいて、兄弟で七鳳組に属していた。

 兄の方は組長の屋敷へ同行していたはずなのだが、嫌な予感がした乙哉が皐月に連絡を取ってみると、

「……やっぱり……あの兄弟、裏切りやがった」

 兄の方も少し前から姿が見えないようで、自分たちの周りに二人も裏切り者がいたことに乙哉や皐月もショックを隠しきれない様子だった。
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