極道シングルファザーの甘く危険な独占愛
 その頃、攫われた羽衣子はというと、

「……ん、……ッコホ、コホ……」

 目を覚まして辺りを見回すも、高い位置にある窓から薄く光が差し込むだけで周りは薄暗く、埃と鉄の錆びた臭いに咳き込み、顔を顰めていた。

(ここは……どこ?)

 辺りに人の気配もしないことから、不安に思いつつここに連れてこられた経緯をゆっくり思い出していく。

(確か、病院でメッセージが届いて……トイレに居たら音がして…………こっそり裏口から外へ出たら……)

 そう記憶を蘇らせているさ中、遠くから近づいて来る足音に身構える。

 けれど、両手を後ろで縛られ柱に括り付けられている為その場から逃げることは出来ず、不安と恐怖に身体を震わせていると、錆び付いた扉がキィーッと音を立てながら開いていく。

 そして、

「目、覚めたか」

 羽衣子の前に姿を現したのは、

「……お兄ちゃん……」

 羽衣子の兄、想汰だった。

「悪かったな、手荒な真似して」

 想汰は悪びれた様子も無く淡々と話しながら羽衣子に近づいていく。

「……お兄ちゃん、だったの? あのメッセージを送ってきたの」
「ああ」
「どうして? 引越しと共に連絡先は変えたのに……」
「連絡先を知る方法なんていくらでもあるよ。それにしても、駄目だろ? 少しくらい警戒しないと」
「…………っ」
「まあ、あの子供(ガキ)のことが心配だったんだよな? お前は優しいから、メッセージ通りに動いてくれると思ったよ」
「……っ。もしかして、昴さんを襲ったのも、お兄ちゃんなの?」
「まあ、タイヤに銃弾撃ち込んだのは別の人間だけど、アイツを刺したのは俺だよ」
「刺し……た?」
「あ、知らなかったのか? そう、アイツの車がバランス失って木にぶつかって停まったところを仲間と一緒に襲撃した。アイツしぶといから動いてたけど、頭打って意識朦朧としてる感じだったからそこを狙ってナイフ振り上げたけど避けてさぁ、何度か揉み合いになったけど、流石に動き鈍かったから脇腹辺りをな。結構血出てたから、もしかしたら助からなかったかもしれねぇな」

 羽衣子を前に昴を襲った時の状況を嬉々として話していく想汰。

「……なん、で……」

 いくら敵対している男の側にいるとはいえ、そこまで酷いことが出来る兄を軽蔑し、昴が刺されて瀕死の重症を負っているかもしれない事実を知った羽衣子は怒りと恐怖で感情が追いつかない。

「何で、お兄ちゃんは……そんなことを、するの?」

 ようやく発した言葉に想汰は、

「そりゃあ、俺が助かる為だよ。高遠の言うこと聞かねぇと俺が殺られるんだぜ? だったらなりふり構ってられねぇだろ? アイツはお前を気に入ってる。お前を差し出せば、俺のことは許してくれて、これからも側に置いてくれるんだってよ。アイツぶっ飛んだ奴だけど味方にすれば怖いものはねぇし、無敵だ。その為なら多少の犠牲は仕方ねぇよ」

 悪びれた様子も無く言い放った。
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