極道シングルファザーの甘く危険な独占愛
「さようなら、また明日ね」

 羽衣子はいつも通り笑顔で手を振りながら園児たちを見送っていたが、その胸の奥には昼間の出来事が重く引っかかっていた。

 やがて、最後の一人となった希海が不安そうに羽衣子の服の裾をぎゅっと掴む。

「せんせ、パパまだ?」
「もうすぐ来るよ」

 言いながら優しく頭を撫でていると、ちょうど玄関の外から車の止まる音が聞こえ、顔を上げると昴が足早に門をくぐってくる。

「すみません、遅くなりました」
「いえ、大丈夫ですよ。お仕事お疲れさまです」

 羽衣子が応じると、希海はぱっと表情を明るくして駆け出した。

「パパ!」
「待たせたな、希海」

 自然な親子のやり取りに羽衣子はほっと息を吐く。

 けれどその直後、昼間の出来事がふいに脳裏を過ぎり、

「あの……」

 気づけば昴に声をかけていた。

「今日、少し気になることがあって……」
「気になること?」
「希海くんが園庭で遊んでいる時に……見知らぬ男性から柵越しに手招きをされていたんです」

 昴の表情が微かに引き締まる。

「……それは、いつ頃ですか?」
「お昼前くらいです。すぐに気づいて離れさせたので、接触はありませんでしたが……」

 その言葉に昴は小さく安堵すると、静かに頷いた。

「そうでしたか……なら良かった。このところ、この辺りでも不審者の情報が出ていると聞いています。先生方も不安でしょう」
「……そうですね……」

 そう答えながらも羽衣子の脳裏に“あの男”の顔が鮮明に蘇る。

 ――「貴方、吾妻 羽衣子さんですよね?」

 思い出して背筋が粟立ち、思わず肩が震えた。

「……吾妻先生?」

 異変に気づいた昴が訝しげに覗き込む。

「何か、あったんですか?」
「……っ」

 喉まで出かかった言葉を羽衣子は必死に飲み込んだ。

 希海のこともあり昴は無関係ではないかもしれない。

 けれど、ここで話すべきなのか判断がつかない。

 それに、誰が聞いているか分からない場所で口にするには不安が大きすぎた。

 羽衣子は視線を伏せたまま小さく首を振る。

「……いえ……大丈夫です。すみません……」

 昴はその様子をじっと見つめた後、やがて静かに口を開いた。
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