極道シングルファザーの甘く危険な独占愛
 部屋に残された羽衣子はその場から動けずにいた。

「羽衣子! お前からアイツに言ってくれよ! 俺、本当に悪かったって思ってる! 反省してるんだ! お前のことも!」

 必死に訴える想汰は間を置くことなく言葉を重ねていく。

「これからは心を入れ替える! お前にとって良い兄貴になるから! だから、頼むよ!」

 けれど、その言葉は羽衣子の胸には届かなかった。

 反省しているように聞こえても、それが心からの言葉ではないことくらい羽衣子には分かっていた。

 ただ、この状況から逃れたい一心で口にしているだけだと。

「……お兄ちゃん」

 静かに名前を呼ぶと想汰は顔を上げた。

「何だ?」
「覚えてる? お父さんとお母さんが亡くなった時のこと」
「ああ……覚えてるよ。忘れるわけないだろ」
「私はまだ五歳だったから、二人がいなくなった意味も分からなかった。叔父さんに、『もう二人には会えないんだよ、ここでは暮らせないんだよ』って言われても、どうしてって思うことしかできなかった」

 想汰は黙って耳を傾ける。

「でも、お兄ちゃんがいたから……いつも私のそばにいてくれたから、寂しくなかった」

 当時を思い返すように羽衣子は小さく笑う。

「『俺が羽衣子を守るから何でもお兄ちゃんに言うんだよ』って言ってくれたでしょう? あの言葉があったから……私は頑張れたの」
「羽衣子……」
「でも、叔父さんの家を出てから、お兄ちゃんは変わった。叔父さんも心配してた……」

 一度言葉を切ると胸の奥にしまい込んでいた思いがあふれ出す。

「大学の時、お金に困ってるって言って来た時も、お兄ちゃんが困ってるなら助けたいって思った。やっと連絡が取れた時も今度こそやり直せるって信じてた」

 視界が涙で歪み、声が震える。

「なのに……お兄ちゃんは、また私を裏切った……」
「羽衣子、それは――」
「違うって言わないで!」

 感情が溢れた羽衣子は想汰の言葉を遮るように強く言った。

「お兄ちゃんは、いつも人のせいにしてばかり! 誰かに言われたからとか脅されてたからとか……そんなことばっかり!」

 頬を伝う涙を拭うこともなく想汰を真っすぐ見つめる羽衣子。

「例えそうだったとしても、最後に決めたのはお兄ちゃんでしょ? 私のことを大切だって言いながら自分が助かる為なら平気で差し出せるんでしょ?」
「それは違くて……」
「違わない!」

 悲しみと怒りが入り混じった声が部屋に響く。

「あの頃のお兄ちゃんは、そんな人じゃなかった。自分のことより相手を思いやれる、優しい人だった……」

 そして、とうとう堪え切れなくなった涙が次々と零れていき、羽衣子の頬を伝い落ちていく。

 その姿を見つめる想汰は何も言い返せなかった。
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